話しかけてみる


まさか本当に狼と遭遇するなんて。
確かにお母さんやおばあちゃんはいるって言ってたけど、まさか本当に遭遇するなんて思ってもみなかった。
しかも、ここはどちらかと言えば民家に近い方だ。
狼とは無縁のところだと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

どうしよう、困った。
さっきの子猫みたいに、言葉が通じていれば嬉しいのだけれど…。
狼って人間食べたりしないよね?
噛まれたりしちゃうかな?
若干の不安を抱きながらも、また話しかけてみる。

「えっと、あの、私は別にこの森を荒らそうとか考えてないからね。今日はこの川で涼もうと思って…」
「…」
「その、これからよくここに来ると思うけど、本当に変なことはしないから!だから、これからよろしくお願いします」

狼相手に何頭下げてるんだって自分でも思う。
でもこうすることで、ちょっぴり警戒心が解けるんじゃないかな。
なんて、言葉が通じるはずもない狼に期待しているくらいには、気は動転しているわけで。

「あ、れ…?」

通じるわけないかと諦めかけた時、
狼がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
あ、やば。
なんか怒らせちゃったかな?
どうしよう、落ち着かせるにはどうしたらいいんだ?
やばいやばい、こっちくる!
どうしよう!
食い千切られたくないよ、やだやだ!

「あ、ご、ごめんなさい!なんか気に障っちゃったかな?ごめんね、謝るから許してください!」
「…」

やっぱりだんまりの狼は、私が手を伸ばせば届く距離で止まる。
やばい、絶対に殺される。
殺される前に早く逃げよう。

私はゆっくりと荷物が置いてあるところに上がり、ポーチを手に取る。
忍び足でその場から退散しようとするが、また狼が動き出し、私の帰り道の行く手を阻んだ。
それはもうお行儀よくお座りして。

「えぇ…困ったなぁ。あの、すいません狼さん。私、その、帰れないんですけど…」
「…フンッ」

え、今なんか笑った?
それとも満足気にした?
それとも当たり前だろ的な反応?
とにかく、私の言葉を理解したかのような反応で少し驚いた。
この狼、私の言葉通じてる?
いや、もしそうだとしたら故意的に道を塞いでるから意地悪い。

私はとりあえずその場に座り、狼が退いてくれるのを待つことにした。
いつになるか分からないけど、しばらくすれば飽きて退いてくれるだろう。
そうしたら無事に帰れる。
…飽きて喰われなければの話だけど。

「…狼さん」
「…」
「あの、できれば日が暮れる前にはそこを退いてほしい、です」
「……」
「あと、できれば食べないでいただけると…嬉しいな、なんて」
「………フンッ」

今のは絶対笑ってる気がする。
何言ってんだこいつ、的な感じで鼻で笑われた気がする。
お望み通り食ってやるなんて思ってたらどうしよう。
とにかく私の不安は募るばかり。
あぁ…どうしよう、もう泣きたい。




  
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