意思疎通


かれこれ10分以上も狼との睨めっこが続いている。
といっても、たまに私の方が折れて視線を逸らすんだけど。
狼の方は視線をそらすことなくじっと私を見つめてる。
否、見つめてるというよりも監視しているといった方が適確だろうか。
この状態をまさしく、蛇に睨まれた蛙と言うのだろう。

「狼さん、そろそろ通して…」
「グルル…」
「ひっ!ご、ごめんなさい、嘘です、ここにいます!」

お、怒ってる?よね?
初めて唸られた…。
あの鋭い牙に噛まれたらやばいな。
あ、ダメだ、ネガティヴなことは考えない考えない。

私が自分の頬をペチペチ叩いていると、狼がまた少しこちらへ寄ってくる。
え、ちょ、なになに、何ですか!
別にこれ食べていいのサインじゃないんですけど!
パニクり始めた私をよそに、狼は座ってこちらをまた監視する。
ち、近い…。

「うぅ…。あ、れ?」

もう終わりだと覚悟を決めかけた時だった。
狼の前足に何かで怪我をしたような跡があった。
人間でいう擦りむいたような傷で、痛々しく血が出ていた。

「狼さん、怪我してるの?痛くない?…あ、そだ」
「…」
「ちょっと待って。…あった!これ、ふのっしーのハンカチ」
「ッ...!グルル!」

私はポーチの中に常備していたふのっしーのハンカチを取り出し狼に見せたが、見慣れないものに驚いたのか唸られた。
動物受けが悪いのかな、この柄。
結構可愛いと思うんだけどなあ。

「大丈夫だよ、これはあなたの傷口に巻いて悪化しないようにするの。でもその前に、傷口消毒しないとね」
「グルルル」
「そこからバイキン入ったら歩けなくなるかもしれないよ?また元気に走り回りたいなら、大人しくしててね」
「...」

ここでようやく言葉が通じたのか、途端に大人しくなる。
まあそうだよね。見ず知らずの奴に怪我の手当てされるのは不安だよね。
私はポーチから自分の足を拭く用に持ってきていたタオルを取り出し、川の水に濡らす。
余分な水気を取るため絞ったら、また狼の元へ戻ってそれを傷口に当てる。

「グルッ...」
「ごっ、ごめんね?傷口についてる砂と血だけぬぐったら終わるから」

さっきよりも少しだけ力を緩めて傷口にタオルを当てる。
きっと傷口に沁みてるんだろうな。
遠目からだと浅い傷のように見えるけど、近くで見ると結構深い傷だ。
さっき草むらから出てきたときも、歩き方に少し違和感を覚えていたから気になってはいたんだけど。

「うん、もう大丈夫かな。ハンカチ巻くから、もう少し我慢しててね?」
「...」
「きつかったら唸るなり吠えるなりして教えてね」
「......」

本当に分かってるんだか、そうじゃないんだか。
私は狼の怪我をしている方の前足を自分の膝に乗せ、ハンカチを巻いていく。
2回半ほど巻いたら、余ってる部分で取れないように二重に結ぶ。
動物相手に怪我の手当てをしたのは初めてだな。
我ながらそこそこスムーズにできた。

「よし、もう大丈夫!バイキンが入ったりしたら大変だからね」
「...」
「あ、そうだ。私、すぐ近くの民家に泊まってるから何かあったらおいで。って言っても、分からないよね」
「......」
「明日もここに来たいんだけど、いいかな?狼さんのそのハンカチ、明日また清潔なやつに変えてあげる」
「フンッ」
「うん、それ良い返事か悪い返事かわかんないや」

なんだかんだで狼と会話が成り立っているのは不思議なことで。
まあでも、さっきよりも私を見る目が優しくなっているような気がするから襲われる心配はなさそうだ。
意外と大人しいし、よく見ると綺麗な毛並みをしている。

「狼さんの毛、少し青っぽいんだね」
「...フンッ」
「え、今笑った?笑わなかった?今更かよ的な感じで笑ったでしょ!」

やっぱりこの狼、よくわからないです。




  
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