明智光秀 | ナノ
願わくば

※完全オリジナルストーリー、夢主トリップ設定。
※死ネタ注意。


もう二度と元の時代へ帰ることができないのなら、
もう二度と家族に会うこともできずに死んでしまうなら、
もう二度と友だちと話すことはおろか会うことすらもできないのなら、
この時代で私ができる精一杯をしたい。
今までずっとそう思ってきた。
それはこれからもきっと変わらない。

だからね、守ろうと思ったの。
この時代でできた大切な存在を。
だからね、人は物とか駒なんかじゃないって何度もいうの。
生まれてきた人は必ず内に強い意志や夢を持っているから、物みたいに扱うなんて間違ってる。

だからね、あなたに伝えたかった。

朦朧とする意識の中で見たのは、
愛しき人が目にいっぱいの涙をためている姿。
彼に抱き起こされ、何か必死に訴えられるがうまく聞き取れない。
頬に彼の涙が一粒、また一粒落ちてくる。
その涙さえも、温かく感じてしまう。

「何故っ、そなたが…!」

嗚呼、泣かないで。
あなたを悲しませたくなんかないの。
ただ、あなたを守りたかっただけ。
あなたに後悔なんかしてほしくないの。
天下を統べる殿の側にふさわしいのは、あなたしかいないのよ。

どうか惑わされないで。
あなたを惑わす闇を信じないで。
どうか生き抜いて。
群雄割拠の戦火渦巻く戦国時代を。
どうか忘れないで。
私があなたを愛していたことを。

「のぶなが、さま…」
「何故このような…」
「だめ、だよ…。さぶろ、にはねっ…のぶながさまが、ひつようなの」

うまく喋れないのがもどかしい。
震える手で彼に手をのばす。
脇腹に刺さった懐刀の感触さえ、もう麻痺して感じられない。

「だい、じょうぶ、だから…。あなたも、たたかってる…にくしみは、あらたな憎悪を、うむ、だけ…」

だから、あなたはこれからも戦わなくてはいけない。
どうか、戦うべき相手を見誤らないで。

「お、ねが、い…。どう、か、いきて…さぶろ、を、おねが、い」

途切れる言葉を必死に紡ごうとする。
届けたい言葉はもっと、山ほどあるというのに。
このポンコツな口や体が言うことを聞いてくれない。
とうとう目の前もかすみ、瞼が重くなる。

最後に、あなたに伝えたいことがあるのよ。
それで終わりにするから、どうか神様。
もう少し、あと少しだけ…。

「のぶ、な、が…さ、ま…。おしたい、して、り…ます」

お慕いしております。
帰蝶さまがおっしゃっていた。
この時代では愛しているということを、そういうのだと。
きっとサブローのことを考えながら、お話しされていたのだろう。
とても柔らかな表情をされていた。

私もあのような表情でいつからあなたに言いたいと思っていた。
けど、どうやらそれは叶わないで終わってしまうらしい。
体のすべての力が抜け、伸ばしていたても力なく彼の両手の間から滑り落ちる。
温もりも、光も、あなたの姿さえも感じられない。

信長様、信長様…。

「そなたを、心から愛している。今も、この先も」

最後に聞こえた愛しき人の声。
嗚呼、そんなことをいわれてしまったら、もう少しだけ、あと少しだけど願ってしまう。
でも、それももう叶わない。
信長様、元の世界で過ごしていた時のように、あなたに会えるまでずっと待っているから。
またあなたに出会えるよう、来世でも笑えるよう、静かに祈り見守っております。
それまで、どうか…。

お元気で。


それは遥か昔のお話。
気が遠くなるような昔のお話。
未来からやってきた少女ととある武将の不思議な出会いから始まった、奇跡の物語。
それはまたいつか出会える日を願った二人の、儚く切ない恋の物語。

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