明智光秀 | ナノ
来世を願う

サブローを殺すかもしれない。
裏切ってしまうかもしれない。
そんな相手に、不覚にも恋に落ちてしまった。
これから起こることを知っている私にとって、それは苦渋の選択だった。

「そなたを死なせたくない」

その言葉がどんな意味を含んでいるのか、すぐ察することができた。
けど、私はサブローを裏切るなんてできない。
殿の前に、私にとって親しい友人だ。
例え好きな人から殺せと命令されようと、私がそれを実行することはない。

「できない。光秀、いいえ、信長。あなたの望み通りにはならない」
「…そなただけは、わしの味方だと思っていた」
「味方だよ。でも、悪い方向へ行くあなたを応援することはできない」

こんな結末、望んじゃいない。
どうしてあなたはサブローを殺すの?
嫉妬?憎悪?
何があなたをそうさせているの?

「手に入れられぬのならば、力ずくしか方法を知らぬ」
「そんなの間違ってる」
「それしか、知らぬのだ」
「っ…!?」

突如体に走る激痛。
痛みを感じる部位へ視線を下せば、己の体を貫く一本の刃。
痛みに耐えられなくなり、その場に膝をつく。

「くっ…」
「明智殿、いや、信長様。これでよろしかったでしょうか?」
「あぁ」

聞き覚えのある声。
いつもサブローを妙な殺気で見ていた、奴だ。
痛みを堪え顔をあげれば、やはりあの男が立っていた。

「秀吉っ…!」
「哀れよのう。大人しくこちら側についていれば良いものを」
「だれ、がっ…」
「少しばかり意外ではあったがな。てっきり、こちら側につくと思っていたぞ。お前の慕う明智殿がおられる故」
「ははっ、馬鹿、言わないでよ。わたし、の…好きな、ひとは、こんなんじゃない…」

こんなの、間違ってる。
ねぇ、光秀?
あなたはこれを正しいと本当に思っているの?
視界が霞んでくるにつれて、意識も朦朧としてくる。

「最期に、言い残すことはあるか」

秀吉が問う。
わたしの首を切り落とすための刀を片手に、薄ら笑いを浮かべながら。
もう私にはどうすることもできない。
上手く秀吉の口車に乗せられてしまった彼を、
私はどうすることもできないのだ。
自分の無力さを思い知る。

それならば、このまま絶える命ならば…。

「サブローが、天下を統べる…」

薄れゆく意識の中、一瞬だけ見えた光秀の表情は、ひどく切なく悲しいものだった。



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