明智光秀 | ナノ
何気ない

※ほのぼの

柔らかな日差しと、
気持ちの良い朝を告げる鳥たちのさえずりで目を覚ます。

この世界へ来てもうすぐ半年が経とうとしていた。
織田家の屋敷も大体把握したため、
一人でも迷わず歩く事ができるようになった。

そして今日は、
サブローと帰蝶さんのデートの日。
見張り役のつねちゃんとともに、
私も同行することになった。
一人じゃつねちゃんが可哀想という、
サブローの謎の気遣いの巻き添いが私というわけだ。
非リアどもは指くわえてなとかいう、
新手のいじめではないかと思ったことは秘密だ。

お昼頃に出発するって昨日言ってたから、
早くにでも準備はしておいた方がいいかな。
さっそく顔を洗いに行こうと井戸まで足を運ぶと、
白い頭巾で顔を覆った見慣れた男が立っていた。

「あ、光秀さん」

何か考え事をしていたのか、
私の気配に全く気づかなかったようで、
一瞬驚いたように目を見開いてこちらを見たが、すぐに優しい目に変わった。

「今日は殿と帰蝶様のでえとの付き添いだとか」
「いい迷惑だよ、本当。巻き添いくらった私の睡眠時間返して欲しいよ」

これだからリア充はとため息をつき、井戸の釣瓶に手をかけた。
しかしそれを見た光秀さんが、
私から桶を取って簡単に水を汲み上げてくれた。
申し訳ないと一礼して感謝をすれば、
これくらい感謝をされるほどのことではないと笑う光秀さん。

光秀さんって、本当紳士だよなぁ。
現代にこんなイケメンいたらなぁ。
顔は頭巾に覆われてよく分からないけど、
目はすごく綺麗で素敵だし、
絶対イケメンだと思うんだ、うん。

「本当、光秀さんがさんみたいな人が彼氏だったらいいのに」
「それは…」
「あぁ、いえ、何でもないです。汲んでくださって、ありがとうございます」
「…いや、気にせずとも良い」

そうだった。
彼はこの時代の人間であり、
私のいた平成とは少し違う単語を使う。
マジとか彼氏とかリア充とか、
そんな言葉を聞いても首を傾げてしまう。
それを忘れてたまにべらべら喋ってしまうから、
きっと光秀さんには変な人と思われているだろう。
今後は気をつけなくては。

桶の中に溜まった水を手ですくい顔を洗う。
ひんやりとした井戸の水が心地良い。
二、三度顔を洗ったら、
持ってきた手ぬぐいで顔を優しく包むようにして拭く。

私がいたとこじゃ、
すっかり井戸なんて見なくなったし、
日本でも井戸があるとこなんてそう多くないだろう。
時代が移ろい、
様々なものが姿形を変えて便利になっていくけれど、
新たなものが生まれ、あったものがなくなっていくのも悲しいものだ。

まぁ、サブローは信長になっても変わらない性格だけど。
高飛車な男になるかもしれないという不安が少しあったけれど、
いつまで経ってもやっぱり変わらないサブローに、
私は心底ほっとしている。
いや、ほっとしている反面呆れているところもあるんだけど。

「はぁ。何が嬉しくて、人のデートを監視しなきゃならないのよ」
「…#名前#殿はでぇととやらをしたことがあるのか」
「光秀さん、痛いとこ突きますね…。残念ながら、ないんです」
「許婚もおらぬのか」
「まさか!こんな雑な性格の女、誰も相手しませんよ。だから許婚も、そういう関係にある人もいないんです」
「…そうだろうか?某には、十分魅力的な女子に見えるのだが」
「えっ、私がですか!?それはないですって!そんな光秀さんが思ってるような人間じゃないですよ」

光秀さんってば、本当お世辞が上手いんだから。
危ない危ない、危うく本気にするとこだった。
こうやって数々の女性を虜にしてきたんだな、光秀さんは。
あれか、無意識の言葉か。
無意識に虜にしちゃう天然なのか。

なんて1人でノリツッコミを心の中で繰り広げながら、
上気した頬を手で軽く扇ぐ。

「あっ、やば!そろそろ準備しなきゃ。光秀さん、ごめんなさい!帰ってきたら、またゆっくりお話しましょう!」
「そうか…。帰ったら、たくさん話を聞かせてくれ」
「はい!それじゃ、失礼します」

相変わらず光秀さんは目の保養になるなあ。
るんるん気分で何度も振り返りながら自室へ戻る私を、
見えなくなるまでずっと見守っていてくれた光秀さん。
子どものように振り返っては手を振り、
それに優しく振り返してくれる彼は王子様だ。
私の時代にいたら、
絶対に日本の国民的アイドルになるに違いない。
そう考えると、最初はどうかと思っていた、
サブローがつけたミッチーというあだ名も、何だか愛らしく思えてくる。

もしもとの時代に帰れなくても、
光秀さんやサブローがいるこの織田家にいられれば、それでいい。
みんな一緒に笑顔で暮らせれば、それだけで私は幸せだ。



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