(≒英國ロマン)
「君、伯爵の知人にジャパニーズはいるかい?」
そう聞いてきたのは、幾度か公式のパーティー会場で見たことのある男だった。
セバスチャンは脳内で当て嵌まるピースを探す。
シエルを知り、かつ、シエルのジャパニーズ関係者を知る者。
無論、シエルのジャパニーズ関係者など、たった二人しかいないのを考慮に入れて。
一人は家令であるタナカ。
もう一人は専属家庭教師である──
「ええ。数人ですが記憶していますよ、スミス様」
独身で有名な貴族の男が、まさかタナカを指名ではあるまい。
内心舌打ちをして、だが、決定打が打たれるまでは決して口を割ることないよう、注意を払う。
執事、という立場も含めて。
「その中に、女性はいるかな?丁度、二十代くらいの」
──やはり、か。
考える事は決まっている。
男の好色に光る瞳を見れば、何を期待しているかなど、探偵でなくとも理解出来た。
大方、本妻にでもするつもりであろう。
セバスチャンはたまらず、漏れそうになる溜息を抑えるのに必死になった。
ジャパニーズの女性が伴侶として素晴らしいという噂は、幾度となく囁かれている事だから。