「今日の舞台もとても魅力的でしたね」


「僕はたいして面白くもなんともなかった」


社の取引相手から今人気の舞台チケットを貰ったため、急遽予定を変更させてロンドンまで赴いた帰り。
タウンハウスで一夜を過ごすことにしたシエルと葉月は。


遅めのディナーを食べながら舞台を思い返していた。


ストーリーは“いかにも”なもので。
貴族に愛されるというより平民受けするような代物だった。


貴族の男と平民の女のラブストーリー。
地位という障害を乗り越えて、大恋愛をした二人は、周りからも認められて末永く幸せに暮らしました、とさ。
というもの。


「夢があって素敵です」


「所詮ただの舞台だ。現実にあんな馬鹿はいない」


恋愛ごときで地位を捨てる決意なんてする男が何処にいるだろう。
女は愛人にでもすれば良い。
結局、人間は誰でも自身が一番可愛いのだから。


ぱくりとセバスチャンお手製のメインディッシュであるチキンのローストを口に入れて、シエルは興味なさ気にあしらう。


そういうシエルも貴族の当主だ。
エリザベスという可愛い婚約者がいて、確かに他の平民に目移りする所もない。



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