第2章・3−5
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「ちなみに、オプション代めちゃくちゃ高いから」
城戸は目をすがめ、嘲笑を浮かべた。たびたび目にしてきた、私がもっとも「城戸らしい」と感じる、どこか冷ややかな笑み。
「まあ、こんだけ豪勢だったらしょうがないよね……」
私は頬をひくつかせながら、なんとか平静を保ち続けた。
ちょっと私には濃厚すぎそうなお茶とお菓子を、どのように処理しようか。いや普通に食べるつもりだけれど、食べるしかないけれど……。
目の前に横たわる問題、というか胃袋の危機に頭がいっぱいで、城戸をいじっている余裕なんてなかった。おととい城戸を怒らせたばかりで、あまり強気に出られないのもある。
「僕が気合いを込めてトッピングしたんだから、じっくり味わいなよ。これから高い金払わなきゃいけないわけだしね」
城戸はウェイターとは思えない尊大な態度で言い放つと、テーブルに伝票を置いてさっさと去っていってしまった。
城戸のしっかりとした足どりは軽やかでもあって、どうやら相当機嫌がいいようだ。
高いお茶代を私に請求できただけで、そんなにうれしくなるのだろうか。私には理解しかねる。
まだ紅茶に手をつける覚悟の固まっていない私は、テーブルに伏せて置かれた伝票をひっくり返してみた。
二品しか頼んでないのに、オプションのせいで、何行にもわたってずらずらとメニューが書きこまれていた。
気になる合計金額は……一一五〇円。
確かに都会でも観光地でもない場所で、お茶とお菓子を楽しむにしては少々高い金額のような気もする。が、「高い金を払わせてやった」と勝ちほこるほど、高額なわけではないと思う。
もっとも、過剰すぎるオプションは、私になかなかの精神的ダメージを与えていたけれど。
私だって甘いものは嫌いではない。でも、どちらかといったらさっぱりとした和菓子派なのだ。
なかなか生クリームたっぷりの紅茶に口をつける気になれないから、私はティースプーンでカップのなかをぐるぐるかき混ぜる。
実は、城戸も私に会えてうれしかった、とか?
……いや、それはないか。城戸が私に好意を抱く理由がない。
たぶん、イチオシのメニューを客に出せて、達成感を覚えているとか、きっとそんなところだろう。
おそらく、城戸のトッピングセンスは、だれにも理解されていない。だから、今まで城戸仕様の紅茶を客に出す機会なんてなかったはずだ。
私はミルクティーの液面でどろどろになった生クリームを見つめて、こっそりとため息をついた。
さっさと飲んでしまわないと、せっかくの城戸特製ミルクティーが冷めてしまう。
冷めたら生クリームが硬くなって、ますます飲みにくくなることまちがいなしだ。ひょっとしたら、おいしいかもしれないし。
私は意を決し、ティーカップを口もとへと運ぶ。
お茶のにおいをかいでみると、まったりとしたミルクと豊かな紅茶のかおりのなかに、カラメルの香ばしさがほんのりと混ざっていた。
かおりは非常によろしい。そう、かおりは。
私はミルクティーが甘すぎないことを祈りながら、カップの中身を口に含んだ。