□カシム



ねえカシム。
私ね、思ったの。
あんたはずっと辛かったんじゃないかって。
でも私はあんたがあまりにも強く見えて。
苦しんでるだなんて気づけなかった。
…ごめん。



「なんつー顔してんだ。」
「今日のカシム、なんか変だ。どこがって言われると困るけど…」
「どこも変じゃねーよ。なんだお前目ん玉おかしくなったのか?」
「失礼な!そんなんじゃないわ!」


人が心配してんのにこいつときたらそんな失礼なことを言ってくる。
でも今日はなんか変だ。夜も更けっているというのに一緒に横にはなるものの一向に寝る気配もないし。


「…なあ、こっち来いよ。」
「何々、甘えたくなっちゃった?」
「うっせ。ほら、」


珍しくカシムから腕枕をさせてくれるらしい。やはりなにか変だ。
カシムの腕枕にお邪魔させてもらうとカシムはそのまま私を包むように胸の中に閉じ込めた。カシムからそんなことをしてくれるのは本当に珍しくて胸の高鳴りが止まない。


「……お前さ、何があっても死ぬなよ。」
「そんなの無理だよ、だって私人間だもん。」
「そういうことを言ってるんじゃねーよバーカ。」


それ以上カシムは何も言わず、私はまだ聞きたいことがあったが、いつもなら起きてられる時間なはずなのに異様に瞼が重くてただ私は眠りについた。




次の日、目が覚めると私を抱き締めていたカシムはそこにいなかった。
私より先に起きるなんて珍しいな、なんて思いながらいつも皆がたむろっている部屋の扉を開けても誰もいない。

どこの部屋を探してもどこにも誰もいなくて。きっとすぐ帰ってくる、そう信じていたけどカシムが帰ってきてくれることはなかった。




そんな私の元にアリババが現れてカシムの死を告げられるのはもう少ししてからのこと。


(昨晩私が異様に眠くなったのも、カシムが妙に優しかったのも、珍しく愛情表現を露にしたのも、)
(全部私のことを考えてくれていたの?)


「かっこいいことしてんじゃないわよ…ばか」




2013/02/01 15:00
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