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 「お盆を開けていてくれ?」
 朝ごはんを食べ終え、少年の送り出しとゴミ捨てに行こうとしていた時だった。
 「うん、もちろん無理に、とは言わないけれど、おねえさんの今働いているところの状況を考えると、そういったことは早めに言っておいた方がいいよねって思って」
 私が今働いているところは、比較的値段もリーズナブルなファミリーレストランだ。もちろん普段であれば、お盆はほとんどの人間が出て当然、といった感覚なので、休もうなどと思えば、極力早め早めに言ってもらわなければならないし、出来るのであれば極力出勤してほしい、と随分と前に店長さんが言っていたのを思い出す。
 「たぶん、大丈夫だとは思うけど」
 私は非正規で働いているし、今の所正社員として働く気力は一切ない。けれど、一応働いている以上は、ほんの少しだけ周囲の人間の気も使ってしまう。
 「それじゃあ、開けていてほしい………一緒に来てほしいところがあるんだ」
 梅雨の晴れ間、と言わんばかりの今日の天気。綺麗な青空に雲一つない快晴は、絶好の洗濯日和。こんな青空を眺めながら言った少年の目は、どこか遠くて寂しかった。
 「一緒に、来てほしいところ?」
 「うん、当日までいう気はないけど」
 ほんの少しでも期待してしまった私が馬鹿だったのだろうか? もしかしたら一緒に旅行に、などと期待をしていた私は、心の中でがっかりと落胆をし、両手に持っていたごみを収集場に放り込む。今日は家庭ごみの日だからとても量が多い。加えて最近、ごみの収集場所をまとめるだとかで、家庭ごみの日の収集日には、ごみが山のようにできている。これではごみ収集の人たちが大変な思いをするだけなのでは、なんてことをのんきに考えていた。
 「では、いってきますね」
 いつのまにか、スーツの中に忍び込ませていたメガネを取り出して装着した少年。あれ、実は伊達メガネだということに、最近になって知った。こっちのほうが印象が和らぐだのなんだの理由で、つけているらしいけれど。
 「あっ、いって」
 『いってらっしゃい』と言いかけた私の唇をふさいだのは少年。
 「お仕事、頑張りましょうね」
 お互いの額をぶつけ、小さな声で言った少年。いつもは玄関先で言うのだけれど、今日に限って、ごみ捨て場に一緒について行ってくれ、なんていうからびっくりした。
 けど、なんとなく理由がわかってしまった。きっと少年はこれがしたかったのだろう。
 「はいっ!」
 ご近所の奥様方が「若いって羨ましいわねえ」なんて言いながら、微笑ましく私たちを見ている。
 このことに私の頬がほんの少しだけ赤くなる。
 きっとこのことが、私にとっての待ち望んだ幸せであり、手放すことのできない幸福。









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