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 世間様がやれ「ゴールデンウィーク」だの「超大型連休」だので脚が浮き立ち、家族旅行だのなんだのと楽しそうにしている間、僕は仕事だった。
 「垣本さん、悪いんですけど、これの処理をお願いできませんか?」
 警察から違法業者の摘発の依頼があり、あれからもう半年が経つというのに、一向に片付かない仕事にいらいらが募る。
 あれから半年と考えれば早いのだろうけれど、まだ半年しか経っていないのだ。
 家族の共に返せる人は、出来る限り返した。
 自力で生きていきたいという子には、まず援助を行う手続きを。
 けれど、それでもあふれ出たのがおねえさんだった。
 おねえさんのお母さまは、おねえさんの名前を出すなり「自分が借金を背負うのも、あの子の面倒を見るのは嫌」だと言った。親戚であればとも思ったけれど、気がつけば「だったら自分が面倒見ますよ」と口にしていた。
 「了解、それじゃあ、堀塚(ほりづか)、悪いんだけど、これのコピーお願い」
 「わかりました!」
 きっと幼い頃、たったあの数日のおかげで今の僕がある。
 だから恩返しにはならないことを承知の上で、おねえさんを助けたい。
 浅はかだと笑われることを承知の上で、弁護士事務所の先生に言えば、笑いながら承諾してくれた。ありがたい話だと思う。
 ふと、机の上に山をつくる書類をにらむ。
 「すごい顔ですよ、垣本くん?」
 ひょっこりと後ろから声をかけられ、思わず振り返れば、スーツ姿の先生が困ったように笑っていた。
 弁護士の先生と言えば、比較的男性で、しかも黒のめがねにカタブツで融通があまりきかない。どちらかといえば怖いとの印象を受けやすいけれど、ここの先生は違う。おしゃれ大好き、お酒も大好き、けれど男性が大嫌いな女性の弁護士先生だ。スーツだって紺色のストライプが入っていて、首元からは銀色のネックレスがキラキラと輝いている。真っ黒な黒髪は一つで、左側の耳下で、ふわふわの髪留めを使って結っている。アクセサリーにはこれっきしな自分にはこの髪留めの正式名は知らないけれど、先生曰くシュシュと言うらしい。
 「…………警察からの依頼が絶えません」
 仕事があるのはいいことだ。無いよりかはマシだ。しかも依頼料金が発生するので、最終的にはこの依頼料金が、僕たちの給料となる。給料がなくなり、貯金も底をつけば、明日の食事もままならない僕からしてみれば、仕事があるのはいいことだ。無いよりかはあったほうがいいのだけれど、
 「あら、こういったこと苦手かしら?」
 「いえ、得意ですよ?」
 「……………ならば何が不満なの?」
 「これ、本来なら依頼者がやることですよね?」
 書類を両手で先生に見せる。僕が今やっている仕事は、本来であれば警察がすべて行うことだ。違法業者の摘発の事前資料作り、違法業者で働く彼女たちの身元調べ。どうしてこんなことまでやらなければならないのかと思わざるを得ない仕事ばかりだ。
 最初、違法業者の摘発の件の時は、おねえさんの名前がしっかりと入っていた。
 だから、まさかと思って身元調査の方法を身につけた。
 おねえさんの身に何かあってはいけないと思い、あの一件については「協力」という形で引き受けて、先生の許可もいただいた。
 けれど、今見ている資料は、明らかに違う。
 「良いんじゃないの」と先生が言った。
 「垣本くん、まだ若いでしょ? いろんな経験をするといいわ」
 「若いって言われても」
 『普通であれば出来ないような経験を幼少期にさせていただいているのでけっこうです』とまでは言えなかった。先生は決して知らないわけではないと思う。
 僕の両親が育児放棄をしたこと。
 僕が小学校入学とほぼ同時に、祖父母と一緒に暮らし始めたこと。
 僕には実は妹がいたこと。
 最初の違法業者の摘発で被害者となったおねえさんと、僕が小学生の頃に面識があったこと。
 決して先生は知らないわけではないと思う。決して口にはしないだけで。






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