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 「大げさに聞こえるかもしれませんが、僕はあの時、本当に、心から絶望していました」
 少年がほんの少しだけ強く私の手を握る。暖かいけれど、逆に暑く感じるのは、たぶん少年が緊張しているという証拠なんだろう。
 「僕の両親は、本当に駄目な人間で、どうしようもなくて。死んだ妹や僕のことを自分のことは思わず、けれど祖父母が僕のことを親切にしてくれるのを、本当は申し訳なく思っていたんです。こんな両親から生まれてきた僕を、生き残ってしまったこんな僕を、こんなにも親切にしてくださってもいいのだろうか、と。おねえさんに会った時、僕は本当に楽しかった。たった三日間という短い期間だったけれど、僕にとってはかけがえのない三日間だった。あの三日間がなければ、今頃僕はこの世にいたかどうかぐらい、本当に楽しかった。だから、もしもで良い」
 ぐっと痛くない程度に私の両手をしっかりと掴んで言った少年の瞳は、決して嘘を言う時の目ではなかった。
 「おねえさんの借金残高三百万、これは僕が返済させてほしい。もちろん、あとで請求なんてしないし、するつもりもない。そして、返済終了後で良いんだ、もちろんおねえさんの気持ちも尊重する。一年後や、僕が立派な弁護士となってからだっていい………おねえさんを僕のお嫁さんにしてほしいんだ」
 しっかりと私の目を見て言う少年の言葉は、決して嘘なんかじゃないんだろう。目を見ればわかる。
 幸か不幸か、私は一七の時にお店へ出て、それからというも働いて働いて働いていたから、色恋がどうとかは一切なかった。
 少し間をおいて、ゆっくりと口を開く。数秒後、少年が私に抱きついてきたのとほぼ同時に看護師さんが入ってきて、いたたまれなくなったのは、案外笑える話。





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