感情に流されるのは馬鹿だけだ なまえが体調を崩してから数日がたった日のある夜。いつものように床で眠るなまえが何かいつもとは違うような、そんな気がしてならなかった。ちらりとなまえのほうへ目をやると、まだ目を見開いている。 「・・・おい」 「っ・・・なんですか・・・」 俺の声にびくりと肩を震わせたかと思うと、頭まですっぽりと毛布をかぶる。 「・・・なんの真似だ、言いたいことがあるのなら言え」 「・・・、」 「おい、」 「見たんです、私・・・」 「何をだ」 「兵士が、女の人と・・・、っ」 ・・・ああ、なるほど。なまえは"そういう場面"を見てしまったわけだ。・・・兵士も当然ながら男や女という性を持っている。戦場という地獄で巨人と戦っているからといって、性欲が湧かない奴はいない。むろん、調査兵団内でもそういう事は行われている。そんなことは俺たちからすれば当たり前のことだったが、こいつはまだ知らないのか。 「兵長も、あんなこと、・・・」 おそるおそるなまえがこちらを振り向く。その瞳には絶望や希望、いろいろな感情が入り混ぜられていて、俺の発する言葉によってどんなものにも変えてしまえそうな気がした。 「・・・抱いてくれ、と言って来た女を拒んだことはない」 「・・・!」 「だがそこに俺の気持ちは微塵もなかった」 今まで俺が体の関係を結んだ女は少なくはない。だが俺は一度たりとも好きな女を抱いたことなどなかったのだ。俺と関係を持った女の兵士の多くは巨人と戦って死んだ。だから今ではもうそんな行為をするのはやめにしているが。 「だったら、兵長・・・」 「なんだ」 「私と、そういう事をしてくれますか・・・」 「な・・・」 真っ直ぐと俺を見、なまえはそう言った。今までこんな風に俺を誘ってきた女は数知れず。そんな女を俺は手荒に抱いた。だがなぜか、今は違う。なまえのこの真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになりながら、頭の中では思考回路が完全に行き場を失ってさまよっている。 どうして今俺の中に迷いがあるのか、自分自身でもその答えを探していた。年齢が違いすぎるからだとか、明日の激しい訓練に備えて体を休めないといけないだとか、他の女の時には頭に浮かびもしなかった理由がいくつも出てくる。だがそこに、なまえを拒絶するという選択肢はなかった。 「兵長、」 「・・・ああ、わかった」 なまえが何か言おうとしたのを無視して、その唇に噛み付いた。 今までこんなふうに感情的になったことはなかったのに。いったい俺はどうしてしまったんだ。もうそれさえも考えるひまがないくらいに、この上なく激しくなまえにキスをした。 20130713 ×
|