とりあえず落ち着け、冷静になれ



 ・・・どうやら俺まで眠ってしまっていたらしい。あたりはもう薄暗く、灯りのついていない部屋の中も暗い。なまえは未だ安らかに寝息をたてながら眠っている。その顔をみているとふいにエルヴィンの言葉が頭をよぎった。(君が惚れ込むのもわかるよ)ハンジがそう言ったなら気にもとめないが、エルヴィンが言ったとなれば話は別だ。俺が知る限り、エルヴィンは少なくとも今まで的外れで空気のよめない発言をしたことはない。

「へい・・・ちょ・・・」

 俺の頭の中がまだ整理のついていないこのときに、タイミングが良いのか悪いのか、なまえが目を覚ました。まだ寝ぼけてやがるのか、とろりとした瞳で目の前にいる俺を不思議そうに見つめた。

「気分はどうだ」
「え、あの・・・」

 今の状況をつかみきれていないのか、無理に上体を起こそうとするなまえ。体にかけてあった毛布を取り払おうとするその手首を咄嗟に掴んだ。・・・細い。こんな腕で本当に立体機動装置を使いこなせるというのか?こいつが戦闘しているところをまだ見たことがないから、不安になってきた。次の壁外調査で死なれては困るから、こいつは常に俺の傍に居るようエルヴィンに話をつけておこう。

「あ、あの兵長・・・」
「まだ眠っていろ」
「でももう体調も優れて、」
「これは俺の命令だ」

 そう言うと観念したのか、なまえは再び静かにベッドへ横になった。「そんなに睨まれたら眠れません・・・」と消え入るような声で訴えかけられるまで、俺はずっとなまえを見つめていたことに気づかなかった。ああ、くそ。明日からまた仕事が山積みだというのに。こんなガキにペースを崩されるようじゃ、"人類最強"の肩書きもずいぶんとチープなものだ。


20130709
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