猫をかぶるのもたいがいにしろ



 そんなこんなで謎の共同生活が始まったわけだが、今日という日はなぜこんなにも静かなのか。いつもならばそれこそ、死ぬほど忙しいというのに。だが俺たち調査兵団に仕事がないというのは、人類にとっては平和の証なのだ。
 それにしても、こんなガキと何を話せばいいのかなんて俺にわかるわけがない。・・・別に話をする必要などないのだが、この女は床に正座で俺から目を離さない。なんなんだ、俺が話すのを待っているのか?めんどくせえガキめ。

「・・・お前は、訓練兵時代に周囲と友好な関係を築いていたと聞いているが」
「私が、ですか・・・?」
「男に媚入る術を、もう知っているのか?」

 少しからかってみようと、大人の悪い部分が出てしまった。まだ人生の半分も生きていないこの女が、そんなことを知っているはずがないのに。無垢な瞳を携えてこちらを見るなまえは、やはり何も知らないのだろう。

「リヴァイ兵長も、」
「・・・あ?」
「・・・兵長も、ソレをご所望なのですか?」

 なまえの目つきが一瞬にして変わる。肉食獣のような鋭い目だ。・・・俺は長年この地位についているから、いろんな人間を見てきた。もちろん経験という武器もそこらの新兵なんかとは比べ物にならない。だがこの目の前の女は、俺が見たことのない恐ろしく無表情なカオを身に着けていた。

「・・・すみません冗談です、媚入る術なんて人聞きの悪いこと・・・言わないでください」
「・・・クソガキ、大人をからかうんじゃねえぞ」

 なんなんだ、この女は。完璧に自分を包み隠しているどころか、その隙を一切見せようとしない。
 ・・・厄介な人間を連れてきてしまった。


20130707
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