「君は何者なのですか?」
「…そんなことを聞くなんて、どうかしてるわね」

 ふとした昼下がり。骸さんはいつもと同じように私にチョコレートケーキをくれた後、尋ねてきて、もぐもぐと咀嚼しながらあら残念と呟いた。賢い貴方のことだもの、私の正体なんてとっくに分かってくれていると思ってた。
 ネタ晴らしはあまり好きではないけれど今日は少しだけ気分がいい。私の機嫌はコレで左右されることをこの人は理解してくれたみたい、本当いい人ね!

 そう、なら少しだけ教えてあげる。私は口に入れたケーキをゆっくりと味わってから口を開く。

「ランチア」

 不意に彼の穏やかな瞳が揺れたと思ったのは一瞬で、作られていた優しい優しい表情がみるみる壊れて私の大好きな好戦的な目になる。ああゾクゾクする!どうしてこの人は私を退屈させてはくれないのだろう!
 きっと私の背景には気がつかなくても、私の本質は理解しているに違いないわ、そうじゃなきゃ私はとっくにこの人から離れているもの!

 ――さあ何から話したらいいかしら? 思わず口が緩む。
 あなたの「おもちゃ」のランチアを慕っている子供がいた事からかしら?そして操られていたランチアに、彼が用心棒として守っていたファミリーと、たまたま旅行にその場に居た両親を殺され日本に帰ることができなくなったことかしら?

 それとも貴方の求めていた回答は、その子供が偶然にも大きなファミリーに拾われて強くなって帰ってきたことかしら?

「…まさか、君は」
「あの人は話したのかしら?いいわよ、もう過去だし」

 驚く彼の綺麗な顔にとっても満足した私はとっても饒舌になる。あの時までは私だって何の冗談かしらと笑うしか出来なかったわ。信じられるものは誰もいないんじゃないかと悲観したし、ランチアは敵だと理解した。

 当時は生きることに必死で復讐だとかそんな事考える暇もなかったし何より事情をひとつも知らなかった…でも、この前犬くんに会って、一応念の為 と日本に渡る前に渡された過去の脱獄犯及び日本における粗野の悪そうな人間をピックアップされた書類のことを思い出して調べてみたらぴったりびっくり!ランチアがそこに違う名前でいたのだ。
 私の出した結論はただ1つ、やっぱり皆敵だということ。ランチアが何故六道骸という名前を名乗っていたのかは知らないけれど、それでも骸さんと無関係だとは思えない。

「気にしないでね。私、あなたを殺すために、とかそんな野蛮なこと考えてないから」
「…」
「私は、あの時拾ってくれたファミリーに恩返しをする為にきたのよ。あなたはその道にたまたま落ちてた、それだけ」
「名前は?」
「…そうね、あなたが驚かないというなら教えてあげる」

 そう言って挑戦的に彼を見やると、彼は一瞬ぽかんという顔をしたけれどすぐに笑った。さもおかしいというようにくるくる変わる表情はまるで年相応の子みたいで好きよ。
 私もつられて笑うと、骸さんは私の首輪をおもいっきり引っ張られ、リンと鈴が鳴る。目の前に彼のオッドアイがあって、吸い込まれるだなんてそんな詩人じみた事は思わなかったけど 宝石みたいでキラキラして綺麗だなという至極凡人的な感想を抱いた。

「君はとても面白い」
「ありがとう。そんなあなたが好きよ」
「クフフ」

 何の戯れかしら、六道骸はそのまま私に深く口付けた。少し驚いてされるがままになっていたけれど、途中で息が苦しくなって酸素を求め口を開いたらそれを待っていたかのように舌が入ってきた。

「っん、」

 執拗に追いかけられねっとりと絡みとられて流石に太ももに手が回ってきた時は膝で彼の鳩尾を蹴った。失敗に終わったけど。なんって女慣れのしてること!口元を手の甲で拭いて睨んだけれど彼は未だに楽しそうな笑顔をしているばかり。その笑みがいつまで続くか、見ものだ。

「下っ端だけど、私はボンゴレファミリー、ヴァリアー所属。あなた達の居場所をいつでも潰せる立場にあるの。よろしくね?」

 チリリン。
 鈴が悲しげな音を鳴らしたけどそれは私のせいじゃない。少しだけ別れの時間が早くなったようなそんな気がして、少し首を振っただけなのだから。
 骸さんは変わることなく穏やかな顔で私を見返してきたけれど私はそれが何故だかとても心苦しくなって思わず心臓の上辺りを掴んだ。

(ねえ真人くん。
私、正義をかざすマフィアになって帰ってきたんだけど、この話をしてもあなたはさっき見せてくれたような笑顔でおかえりってもう一度言ってくれるのかしら?)

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