28


 酒豪のボスに付き合わされほろ酔い状態で部屋から出た。
 スクアーロの飲み残しのキツいお酒ばっかり呑んできたから少しは耐性でもついたかと思ったけどお門違いだったわ…うう、やっぱり大人の飲み物って苦手。ふらりふらりと歩き始めようとしたその前でキラリと輝いたものに気付いて慌てて身をよじる。1秒と立たずに私のいた場所にナイフが刺さり折角気分良く火照った身体が一気に冷めた。
 まあ、何てトリッキーな! 文句を言おうとしたけれどやっぱりやめた。だってここはもう平和な日本じゃないんだもの。そう思いながら私はナイフが飛んできた方を向いて声をかけた。

「ちょっと、危ないじゃないの!」
「どーせ避けんじゃん」

 ふらりと現れたのはやっぱりベルで楽しそうな笑みを浮かべると私の方に駆け寄ってきた。
 何をされても結局は拾ってもらった恩というものが根底にあって、私は彼に1度たりとも苛立ちを感じたことはない。スクアーロに対する態度とはかけ離れているとよく本人に文句言われるけどこればっかりは仕方が無い。

「お帰り」
「ただいま。て言ってもまたすぐ帰るんだけどね」
「えー、オレと遊ぼうぜー」

 半年ぶりの再会に抱擁を交わしつつ駄々を捏ねるベルにあなたも変わらずねとさらさらの金髪に指をいれた。
 悲しきかな手違いのせいで呼び戻されてしまったけれど私には私の役目があるのだ。

「そういや聞いたよベル。Sランクの任務も順調にこなしてるんだって?」
「ったりまえじゃん。オレ王子だし」
「はー、同期がこう着実に上にあがってるっていうのに…私はまだまだだもんなあ…」

 静かな屋敷の長い廊下を並んで歩く。
 気が付けばベルも成長期に入ってしまって、幼少期は同じぐらいだった背丈もぐんと差がついてしまっている。人気のないこの屋敷について先程ボスに聞いたらどうやら最近は皆も忙しいようで基本的にはデスクワークに部屋へ押し込められたボスと、雑用の幹部1人が屋敷にいるだけのことが多いみたい。ああ、それとその2人の世話役が1人ってところか。まあ何にせよ仕事があるってのはいい事ね。物騒だけど。
 ルッスには挨拶したかったなあと思ったけれど仕事とあれば仕方が無い。

「今ユウがやってるのって何ランクなわけ?」
「…Aちょっとってところ。戦闘もないし…私まだ一応補欠だし、そもそも非戦闘員扱いだし」
「ししし。まー落ち込むなって。もうすぐだろ?」
「そうだけど、さあ」

 ついつい唇を尖らせる。
 私の今の立ち位置としては半端で、仮入隊状態で五年も前から此処に居るのけれども決定権はやはりボスにあるこのシステム上仕方の無い事だということは分かっては、いるのよ。

 因みに彼らヴァリアー幹部の、直属の部下になるっていうのであれば彼らの試験とボンゴレ自体の試験の2段階を踏まえないと駄目らしいのだけど流石に年端のいかない私を入隊なんて絶対認められないということで、ベルと同じようにボスに直接見てもらうことになって今に至る。
 7カ国の言語を話せるという最低条件に加え、彼の提示したものも漸く半ばクリアと言ったところで初任務に渡日。その前にやっと隊服の採寸も終えたところなので後はもうこの任務を成功させ袖を通すと言ったところだ。

 だから、私は骸さんには少しだけ嘘をついていることになる。
 一応形の上では所属になるけれど、まだ現段階では非戦闘員扱いの、新人の新人なのだ。

「…上手くいくかなあ」
「ユウらしくねーじゃん。面倒臭いならオレが「それはダメ」

 新米の面倒は新米が見ること。
 そのルールを彼が守っているのかどうかはよくわからないけれど確かに世話を焼いてもらっている気がする。
 私が他の人よりベルに甘いみたいに、ベルも私には甘いのだ。

「っしし。暗い顔してるぐらいならそれの方がいい。気張りすぎると疲れんぜ」
「!ありがと」

 まさかベルに気を遣われるとは思わなくておもわず感謝の言葉。
 ああ、もう何て優しいのかしら。私の頭をポンポンと優しく撫でてくれるこの人は本当に、本当に王子! たとえ他の人にナイフ投げまくってキレたらやばいクソガキってスクアーロに言われてたとしても。

「ま、礼を言うぐらいならさ」
「…やっぱりそうですよね。仕方ないなあ」
「やりぃ!」

 気が付けばトレーニングルームの前に誘導されていました。
 私の部屋の方向じゃないことは分かっていたけれど、自然と私の腰に手を回す彼に歩かされていたことにも気付いていたけれど、それでも彼の言葉にちょっと救われたのは確かで。
 いつの間にか用意していた私のナイフを手渡しながら、何を言われようとも最初からそのつもりだった金髪の王子は楽しそうに笑みを浮かべた。


 (確信犯だけど、格好いい)

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