12


「え、ちょっと、今からなの?!」
「当たり前だろ」

 荷物を纏める間もなくヒョイと肩に担がれ軽く暴れてみるけどより一層がっちり掴まれるだけで終わった。この馬鹿力どうにかならないのかしらと思わずため息をついてしまうのも仕方のない事だとおもうの。
 それでも律儀に鍵もかけさせたしナイフも拾わせたから次に帰ってきた時は一安心かしら。

 とは言っても自分で歩けるっていうのにスクアーロったら真昼間から堂々と歩くものだから私は注目の的だ。彼は私のことを荷物か何かと思っているらしいし、何よりこの人はついでとばかりに私の足をやらしい手つきで触っていて。変態オッサンめって呟くけれど彼の耳に都合の悪い言葉は一切聞こえない。これはもう手癖の問題だろうしどうすることも出来ないのだけど…ああでも学校の時間でよかった…こんなところ誰にも見られるわけにはいかないのだ。
 どうも車を用意してあるらしくてもう間も無く降ろしてくれると安心していた、その時だった。

「…ユウ?」
「あ゛あ゛?」

 どうしてここにいるの!
 千種くんがスーパーの袋を持って歩いてるところに遭遇なんて考えてもみなかったじゃない。…少し可愛い。

「それ、誰」
「!ってめ、‥ッ」
「ああこれはほっておいていいよ」
「学校は」
「うーん…ちょっと帰らなきゃならない用事があって」
「そう」
「すぐ帰ってくると思うから彼に伝えといてね!」

 スクアーロが何か言いたそうにしてるけれど、つま先を鳩尾に当てているこの状態で余計なこと口走ったらどうなるか理解してくれたみたいで助かった!
 このまま千種くんとスクアーロを近付けさせるわけにもいかないじゃない。
 後で教えるからと耳元で呟くとスクアーロは私をより一層強く掴んで、歩き出した。今はまだお互いに知らないとはいえ、我々は本来生命を賭してでも争わない相手であることには違いないのだから。


「あれは何だ」

 そのまま無事すんなりと別れたスクアーロは不機嫌さを隠そうともせず車の中でふんぞり返った。あーあ、こうなったらこの人も少し面倒くさいことを忘れてた。

「私の獲物の、部下よ」
「…へェ」
「あんたより弱いし、武器は槍」
「チッ」

 それでも多少機嫌は治ったらしい。
 五年も付き合えばどうすれば黙るとか、どうしたら萎えるとかも分かってきたみたい。私達には不可侵で、暗黙のルールがある。そのひとつが自分が獲物と断言したものは他者が手出ししないこと。
 私が誰かを殺したり、獲物としたことはないのだけどこの言葉はしっかりとスクアーロにも伝わったようで。きっとイタリアに着く頃にはさっきの事だって忘れてるでしょう。馬鹿だし。少しだけ安心して、私はスクアーロの肩に頭を預けてただいまと呟いたらそれが聞こえたのか頭を無造作に撫でられた。
 こういうところは、嫌いじゃないの。


「銀髪の男、ですか」

 千種から事細かな内容を聞いた骸は、部下である2人にある程度の認識を与えておいた方が良かったかもしれないと今更ながらに歯軋りした。
 彼女が自分達の帰りを尾行していた事に対しては幻覚をもって避けていたが、逆に自分達も彼女の家を知らなかった事に気付きついでに千種を向かわせたところだけはある意味正解だったのだが。犬や千種にはユウが何者かであること、自分が彼女をどう扱おうかなどと伝えたことは無いしこれからも伝える必要が無いと…思っていたのであったが。

 あのユウが大人しく連行されるぐらいだ。恐らくその先は彼女の所属する暗殺部隊・ヴァリアーのある場所だろうし、日本に仮の駐屯先がない限り行く先はイタリアだ。
それでも千種に向けて、すぐ帰ると報告したぐらいなのだからいずれ帰ってくることも確かなのだろう。
 だが、この感情は一体何だ。

―――この手で壊したいと思った。


「犬、千種。よく聞きなさい」
「はい骸様」

――――この手で捻り潰してしまいたいと。


「過ぎてしまった事は仕方の無いことですがね」

 けれど、それ以上に。
 ランチアがユウに触れていたあの時、面白くないと感じたあれは何だ。自分の前に勝手に現れた玩具が元の持ち主に返っていくのを見て感じたこの焦燥感は。
残虐な気持ちと、確かに芽生えたそれに骸は戸惑いつつも口にする。

「あれは僕のものだ」

 誰にも渡したくないという、彼にとっても1番、自分でも不可解な気持ちに。


「ねえスクアーロ、私肉がいい」
「そんなもんねーよ」


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