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 目を覚ましたのは何故か学校の私の教室で、当たり前だけどそこにランチアも骸さんも居なかった。夢だったのかと思ってしまうほど頭も身体は軽くて、まさか今までのことは全部幻術だったのかしらと疑ってみるもそうじゃないと言い切れもしなかった。人間ってひとつ疑いだしたら駄目ね。

「今、何」

 時計を見て口あんぐり。間もなく登校時間になり学生が間もなく集まるようなそんな時間で。あれだけの力を使ったからなのだろうか、それでもまだ体が睡眠を求めていてとてもじゃないけれどこのまま授業を受けることなんて出来やしない。

――仕方ない。

 そうだ、仕方が無いの。お腹も空いたことだし今日は定休日としようと自分を甘やかすことを決定してさっさと外に出る。太陽の光が眩しく、うーんっと伸びをしながら歩くとすれ違う生徒達に挨拶とかされちゃって悪い気はしない。ついでに私用にと既に用意してくれていたケーキを通りすがりの男子生徒に頂いちゃって左手にケーキの箱一つ。

 これでもう家に帰ったらご飯を作る手間が省けたわ、なんて御機嫌なものだから我ながら安いと思う。

「…それにしても、」

 まさかボスに言われるがままにこちらに帰ってきて、まさか脱獄犯に会って、その上ランチアにも再会出来るだなんて思ってもみなかったわ。帰ってきてほんとに良かった。
私は何の返事も出来てはいないけれど、それでも彼から一言聞けただけで自分が思っているより満足だった。きっと、ランチアは骸さんから何かを受けている。それは恐らく私との手合わせで見せた、あの武器の効果の一つじゃないだろうか。
 でも、逃げる気も無さそうで、私の記憶の彼ならきっとその力だってあるはずなのに。また機会があれば…聞けるのだろうか。

 と、そこまで考えている間に家に着いたので思考はストップ。
 私はほとんど当時の記憶を覚えていなかったけど、私を拾ってくれたその日に彼らは私の住所を聞いてくれて、私がそれを正直に答えた。

 彼らが私にしてくれた、初めてのこと。それは私の家の確保だった。それは決して優しさではなく、周りの、突然現れたどこの馬の骨とも知らぬ私を早く日本に帰したい人たちの考えだったみたいだけれど結局のところ私はそのままヴァリアーに居着いた。帰りたくないと駄々を捏ねたというのが正解なのかもしれない。
 本当に不要なら放り出せばよかったのだから何だかんだマフィアとか言っても律儀なところはすごく律儀。

「…開いてる」

 小さな一戸建てのこの家に盗むものなんて何もありはしないし、勿論戸締りを忘れるなんてミスもしてないはずだというのに。
 ドアを大きく開くと玄関からリビングへ続く廊下にはナイフが散らばっていたのを確認。一応念の為と床に張り巡らせたワイヤーに足を引っ掛けたらナイフが飛んでくるっていう初歩的なトラップがことごとく潰されているのにも関わらず、血がひとつも見えない。

 つまり全部を弾いてしまったのか、大層な防具をしているか。それはどちらにせよただの空き巣である可能性だけは無いことを示していた。

 ケーキをリビング机に置いてナイフを構える。私の思い出の場所を汚すのは何人たりとも許さないんだから。
 息を潜め、各所を確認し、最後に自分の部屋を開けると…居た。ご丁寧に布団をしっかり被った空き巣は私の部屋で寝ているのだ。あんまりにも馬鹿らしくて、思わず脱力しかけたけれど敵は敵に違いないし乙女の寝床に入り込むだなんて何てデリカシーのない。

「…そこは有料なんだけど」

 布団に手をかけた瞬間、手首を取られ視界が反転。身体が深く沈んで視界が一瞬グラグラと揺れる。
 あーあ。もうホント、やになっちゃう。

「久々だなあ、ユウ」

 サラリと細い銀髪が私の頬を撫でた。
 鍵も針金か何かでこじ開けた様子もなかったし、腕も立つ人間と判断して、もしかして、とかまさか、とか途中から思っていたけど本当にこいつか。

「久しぶり。あと一刻も早く離れてちょうだい…スクアーロ」

 はぁ、とため息一つ漏らして私は久々の同胞に声をかけた。
 彼はそのままニィと嫌な笑みを貼り付けて私に口付けを寄越すと、楽しそうに笑う。

「仲間に対してひでェ言いようだなあ゛?」
「あーはいはいごめんね。あと五月蝿い」

 許されるのならこの場でナイフを投げてしまいたいと思う。S・スクアーロ。ヴァリアーの幹部にして1番喧しいこの人がどうしてここに。そういや私がイタリアにいた時もよくボスはこの人のこと使いパシリとして日本やらアメリカやらに飛ばしていたのを思い出した。腕は立つのに口煩いのが欠点ね。

「ユウのクセに朝帰りたァやるじゃねーか」
「まあちょっと、色々あってね」

 つまりこの人は昨夜から家に不法侵入した挙句鍵も掛けずに私の部屋で寝てたってこと?後で布団干しておかなくちゃ。…言っておくけれど、勿論私は彼のことが嫌いなわけじゃない。けれど、邪険にしたくなるぐらい私にとって彼は疫病神であることに変わりない。
 何も抵抗しない私に気分を良くしたのかコトを続けようと腿を這い回るその手をパチンと叩く。

「で、何の用なの」
「ボスが呼んでる」

 その単語に私はスクアーロの腕を振り払って起き上がった。
 何事かと驚くスクアーロを尻目に私は何度も彼の頬に口付けついでに頭を撫でてあげた。
触るなカス!って言われたけどしーーらない!

「もー!そんな事なら早く言いなさいよ!」
「…」
「やだボス私に何の用かしら!いえ、何も無くても良いの。顔が見たかったとか言われちゃったらどうしよう。きゃー!もう!ボス好き!」

 人間、二面性というものがある。隠している訳でも何でもない。この日本に帰ってきてからというものボスの事を自慢する相手がいなかっただけだもの。
 難しいことは言わないわ。私はボスのことが大好きなだけ。

「お前…」
「なあに?」
「き」

 だからといって悪口なんて言わせない。平手で弾くと彼は呆気なく吹っ飛んでいった。

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