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スクアーロが自家用ジェットなんか使ってるせいでお昼ご飯を食べることが出来なかった。そもそもスクアーロがそんなご立派なものをボスからお許しを得て使っていることがびっくりよ!いつも実費で行ってる癖に。
それにしても、お腹が空いた…そう言えば今朝貰ったケーキをリビングに置いてきちゃった。帰ってくる頃には食べられるものじゃなくなってる、か。あーあ残念。恨みがましい目でスクアーロを睨むと、「腹が減ったのかあ゛」と何とも微妙なところを当ててきて頭を撫でられた。この人はいっつもそうだ。私の事を子供扱いして!
「安心しろお、ボスが用意してる」
「さっすがボス!分かってらっしゃるのね!」
「…ユウ、だからさっきから言っているがき」
本日2度目の平手打ち。
気持ちが悪いだなんて言わせないに決まっているじゃないの。この人は何度も痛い目に合わないと分からないのか、はたまた殴られるのが好きなのか。そう言えばボスにだって何度も殴られたり蹴られたり撃たれたりしてるにも関わらず変えようとしていないのってもしかして。
「お前、変な事考えてねーなあ゛?」
「べっつにぃ」
「…本当、ボスさんに似てきやがって」
「褒め言葉ね」
そんなことを言っている間にも目的地、到着。何だかんだずっと話をしていたから少し疲れちゃった。
私のことをこんなに小馬鹿にしてるくせに車から降りたら手を差し伸べてしっかりエスコートしてくれる辺り、この辺りだけはまあやっぱり紳士だなと思うところはある‥けれど。
「だからと言ってこの運び方は頂けないわ」
「…ん?」
無自覚なのが忌々しい。
確かにこの人たちの足が長くて歩くのが早いのも分かる。けれど、大人になった今もこうやって担がれたりするのは解せないわ。私の歩調に合わせて歩いてくれるのはもうここではベルだけだもの。これに関しては最初の1ヶ月で諦め、ここにいる間はこうやって『運ばれて』きた。
私だって最近は速さに定評があるっていうのに自分の隣で歩かれるのは癪だの何だの言われてこの運び方を選択されている。
「じゃーなあ゛」
ボスの部屋の前についたと思ったらぺいっと遠慮なく扉を開けて投げられた。心の準備すら用意しないとかさっきのは前言撤回よ!本当に野蛮な人!思いっきりぶつけたお尻を撫でながらデスクのところに目を向けるけどそこにボスの姿はなくて。
でもその奥にあるソファにボスの足が見えたから仮眠中なのだと静かに移動して、
「…幸せだわ」
思わず手をやって鼻血が出ていないか確認する。そこには無防備に寝ているボスの姿があって破顔した。顔や全身に広がる傷も、邪魔だと思ったらすぐに壊してしまうその手も何もかもが完璧だと思うの。
スクアーロには「刷り込みか」と笑われるけれど、人生に絶望していた私を確かに拾い上げてくれたこの組織のボスのどこにだって欠点だなんて見つからない。
何ヶ月、ぶりかしら。いきなり日本に行けって言われたあの日のことは忘れられないし、イタリアを発つ時は命令を受けたスクアーロしか来てくれなくて少しだけ寂しい気持ちにもなったけれど。
「…ただいま、帰りました」
静かに呟くとそれが聞こえたのかいきなりカッと目を開いてこっちを見て、私の首根っこを引っ捕まえた。声を出す間もなくソファの背もたれ部分を乗り越えて、あろう事かボスの上に座らされるとボスはまた静かに目を瞑った。寝惚けて、いるのだろうか。
それでも少しだけ、ほんの少しだけソファの背もたれとボスの間に隙間が出来ている事に気付いて、私は口元を緩めるのを止められなかった。
だってそこは私のいつもの居場所。
「おやすみなさい、ボス」
余程、お疲れの事でしょう。
空いた場所に体を滑り込ませると、イタリアの陽気な日差しとボスの肌の温もりを感じながらやがて襲いかかってくる眠気に私も抗うことが出来なかった。
「ボス、やっと仮眠に入ったとこなんじゃねーの?ユウ殺されね?」
「ペット一匹入り込んだぐらいじゃ変わらねーだろ」
「っしし。後で見に行くか」