縛る


 エリの様子が最近可笑しい。いつもどっちかっていえば行動はトロい方だし、身体能力テストでも受けさせてみれば間違いなくビリの座はコイツのモンだろうって分かってるワケだけどそれに輪をかけてぼんやりしている時が増えているような気がする。流石に俺が横切れば今までのエリならしゃんと背を伸ばして俺に挨拶するってんのにそれさえなく。俺が話しかけて初めて気が付いたっていうのが多い。

「エリ」
「っ、あ、ベルフェゴール様おはようございます」

 それでも俺と話し始めるといつものように戻る。何かあったのだろうかと思っても残念ながら俺とエリの仲はそんなんじゃない。今は、な。どうかしたのかとエリの身体を一瞥。もちろん、いやらしい意味じゃなくて。前はどっかで転けたとか何だかででっかい怪我を隠していたコイツのことだ、有り得ないことじゃねーし…と思っても特に変わった様子もない。じゃあ何だ、熱でもあるのかと思ったけどそれも無さげ。エリが悩む事なんてあるか?なんて俺に分かる訳ないけどやっぱコイツのナイトを気取るんだったらそれぐらい聞かずとも分かってやらねーと。
 じぃっと見ていても答えなんて現れる筈がなかった。寧ろ俺がどうしたのかと小首を傾げてくる有様で、あーそんな無防備な表情浮かべやがってなんて手を出してしまいそうなのをグッとこらえる。

「…もしかして熱、ありますか?」
「っは、」

 何言ってんだと返す暇もなく、ヒタリとエリの冷たい手が俺の頬に触れた。これは流石の俺でも不測の事態。キンキュージタイ。王子ではあるけどその前にヤリたい盛りなお年頃のオトコノコなんだぜ?好きな女に触れられて動じない男がいるならそれは不能っつーかレヴィみたいな変態野郎ぐらいだろ。
 エリの手に、触れる。手のひらを俺の頬にくっつけたままで、それをもっともっととねだるようにエリの手の甲から俺の手を絡ませ擦り寄せる。ビクリとその手が震えたけど知ったこっちゃない。触れてきたのはオマエ。俺は悪くねーし。

「…熱、あった?」
「ぁっ、あ、えっと」

 みるみるうちにエリの顔が赤くなる。茹でタコみてーだなって思ったけどそれ言ったら逃げちまいそうだし…ま、手握ってるから逃がす訳ねーけどさ。
 な、エリ。お前、誰見てんの?俺が気付かねえと思った?当然、付き合ってもないから強く言える立場じゃないってのは十分わかってる。俺が誰かにコイツは俺のモンだって牽制したこともないけどさ。ぼんやりとどっか見てるだけじゃねーことだって分かってた。俺だけ見ろよなんて言えるのはカンタンで、だからこそエリがこっち向くまで待ってやるつもりだったけど横取りするような野郎なんて潰してやるし。
 熱はございません、と恥ずかしそうに小さく震えるエリを見て俺はようやく満足して手を離してやった。「失礼します!」しししっ、お前そっちの廊下行き止まりだけど動揺しすぎ。あーもう、可愛いヤツ。これだからやめらんねーんだよな。パタパタと駆け走っていくお姫様の背中にナイトはご満悦に笑みを浮かべ、決して聞こえる筈もない大きさで投げかけたとサ。

「余所見、してんじゃねーよ」

 俺以外の誰か見てるようなそんな暇も、隙もくれてやんねーから。
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