捕える


 知ってた。気付いてた。
 いつの間にか俺の方が捕われていたことなんて。俺の事を好いているだなんてハナから思っちゃいなかった。それどころか本当は嫌われ、怖がられていることを覚悟しとかなきゃらなねーんだった。突如平穏な日本から攫われて、だけどヴァリアーに居ればとりあえずはエリに理解のある人間なら日本語で話しかけただろうが大体はこの国の言語であるイタリア語。完全に孤独にさせたつもりだった。俺だけがあいつをわかってる。俺だけがあいつの面倒を見てやれる。そう思って、だからこそエリは俺を、俺しかみないなんて自惚れていたのは確かだった。
 そんなネガティブな俺と、どうあってもアイツには俺しか居ねーんだから余所見してしまう前に俺のモノにしちまえよと囁く内側からの俺自身の声で揺れてしまっている。誰にも治すことは出来ないほどの重症。遊んでる場合じゃねーだろ、とっととトリカゴにでも突っ込んじまえよと。甘い言葉を吐き続けて浸らせてしまえよと。

「エリ」

 数日後、クリスマスが控えている。
 俺には別に何も関係ないし寧ろこの日こそ浮かれた暗殺者をブチ殺ししてる方が性にあってたわけだけど珍しくヴァリアーの中でも若干浮足立っていることは知っていた。エリに手ェ出すヤツがいたら問答無用で殺してやる。エリもエリでぼんやりしてるしもしかしたら俺の見ていない間にオトコでも作ったかもしれない、なんてそれは流石に妄想も甚だしいとは思うけどさ。

「べっ、ベルフェゴール様…?」

 …限界だっつの。偶然エリの姿を見つけて抱きとめて。こんな野郎も多くいる建物内、夜遅くに出歩くバカが何処に居るわけ?誰かの部屋にでも行くつもりだったかもしんねーけど、俺には関係ないし。寧ろそれが男の部屋だったらそいつ殺すしかねーし。

「何処行くんだよ」
「…え」

 何でコイツ、落ちねーの。何でコイツ、笑ってんの。ムカムカはとれない。いつまでも気分は晴れなかった。
 いつもだったらおどおどしたり顔を赤くして逃げ出すってんのに何でこんな時に限って余裕そうな表情見せてんの。王子は無害だから平気だと思ってんなら大間違いだし。何度お前のこと夢で抱いてることか知らねーくせに。お前が俺を求めることを何度夢見てると思ってんだ。ゲームなんてもうあったもんじゃない。イージーモードのゲームは楽しくないけどハード過ぎてクリアが見えないのもまた面白くねーんだけど。
 強く強く抱きしめれば腕の中でエリが身を捩る。逃がすわけないし。そんな事を思いながらエリの首筋に顔を埋めるとようやく口を開く様子が分かった。どんな言葉でも聞き逃さないつもりで耳を傾ければ。

「あ、あの…私、ベルフェゴール様の、ところ、に」
「…は?」

 今、何つった。思わず身体を離してエリをまじまじと見れば何故か今までそうじゃなかったくせに突然しどろもどろになるし。…いつもの、エリになるし。何だってんだよ。え、お前俺の事夜這いにでも来たってわけ?色々なことすっ飛ばして?お前が?
 やがてエリが再度視線を僅かにそらし、俺の疑問を解決する。

「お誕生日、お祝い、したくて」

 ……タンジョウビ?

「私、嵐部隊に入ってるのに全然、…そういうの、知らなくて。この前知って、…あの、プレゼントをずっと考えてたんですが何も、…用意、」

 できなくて、と。
 つまり、…何?コイツ、最近ぼんやりしてたのってそういうこと?何、…俺、俺に対して嫉妬してたってわけ?ガクッと項垂れても仕方ねーだろこの場合。俺悪くねーし。こいつがややこしい真似した所為だし。「どうかしましたか?」なんて聞いてんじゃねーよお前の所為だよお前の。俺ばっかりがこうも振り回されているだなんて何つーか…ま、いいか。

「で、」
「…はい?」

 ゲーム?やーーめた、めんどくせ。こいつプレイヤーにすらなれやしねーし、的にするにもふわふわしてるし。かといって遊んでる間に誰かにとられるのなんてムカつくし。
 つか結局ここ数日の俺の悩みだとかそういうのって無駄だったってことだし。こんな夜中にヴァリアー邸彷徨きまわってる事は後でお仕置きでもすることにして、とりあえず手に何も持ってないってことはさっきエリが言ってた通りプレゼントってのも用意出来なかったってことだろうし。…しししっ、まあ俺の為にここまで来たってんならそれぐらいは評価してやるよ。

「お前、俺に何か言いにきたんじゃねーの?」

 王子らしくねーけど、お前が今から言う言葉が多分、きっと、一番のプレゼント…ってな。顔を赤らめながら予想通りの言葉を紡ぐコイツに俺は敵うこと無いんだろうなと、何とはなしに考えた。
END
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