もぐ


 意識し始めると人間ってモンは不思議なもので俺が意図して何か行動を起こさなくても勝手に目で追ってしまうようになる。
 想像通り、計算通り、バカ正直なエリが俺に隠れてひっそりと俺を見る…なーんて芸当できるはずもなく、視線を感じる度に内心笑いが止まんねえよ。ホント可愛すぎて仕方ないから早く俺のとこまで堕ちてくれねえかなあ。
 髪の先まで愛してやりてえのにまだ触れられもしないし会話だってロクに続かないっていうこの現状。お前のその無表情も無口も治してやろうとエリの側に小煩そうな女をつけてやったってんのに結局エリは話を聞く方に徹してしまって意味がないような気もしないでもない。それでも少しは俺の方を向けば問題ない。

「あ、」
「ようエリ」
「おっ、おはようございます」

 今日はちょっとだけ悪戯半分。姿を見せるだけじゃそろそろ俺だって我慢の限界つーか、いじらしいエリを見るのも悪くはないけどちょっとぐらい見て分かるぐらいの進展が欲しい。俺の、俺らしくないこの地道な努力ってのはそろそろ報われてもよくね?
 いつもと同じ時間帯に歩くエリとばったり出くわすように廊下の角で現れてみればボッと火がつく勢いで顔を赤らめるコイツは本当はもしかして俺に気に入られる為の演技じゃねーかって思えるぐらい可愛い。ま、演技派だっていう小悪魔オプションがついていたら余計に愛おしく感じるかもしれないが残念ながらコイツのこれは驚くほど素だっていうことも当然俺は知っていた。笑う顔も泣く顔も、全部見たい。全部、全部俺のモンだし誰にも文句なんて言わせない。

「熱でもあんの?顔、赤いぜ」
「っ、!」

 小首を傾げて覗き込む。あーもう、ホントそれだけで顔そらすのもヤマトナデシコってやつ?日本人のその恥じらいっての俺には情欲煽るだけなんだけどな。
 思わず触りたくなったのをすんでのところで我慢しエリに見えない位置でグッと拳を握りしめた。今触っちまったら逃げるかもしんねーし。今はまだ”出来の悪い新人にも優しい部隊長サマ”ってやつをしてやらねえと。あーでも笑いが出そうになるのはホント仕方ないって。ぜーんぶ俺の計算通り。予想外なのは意外とコチラに堕ちてくるのが遅いってとこか。

「エリ?」
「あ、え、あの、…」

 なんでも、ないんです。段々と語尾が消えていくけど全部聞くのは余裕だった。これまた分かりやすくボッと顔を赤くしたかと思うとあたふたしながら「それでは任務なので失礼します!」ってこんな早く走れたんだなと感心するほどのスピードで廊下を走っていくのをしっかりと見届けた。俺、部隊長だからお前の予定分かってんだけどな。俺は今から任務だけどお前が昼から何も予定無いのも知ってんだけどな。

「しししっ」

 遊んでる?そんなんじゃねーよ、俺は愛してんの。あいつの一挙一動ぜーんぶさ。
 逃げ場なんてやらねえし他の男を見る余裕だって絶対にくれてやらね。エリの翼は俺が全部もいでやった。あともう少し、もう少し。
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