CoCoon | ナノ
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『珍しいね君が僕に電話をかけてくるなんて』
「おやおや、僕はいつだって友好的だというのにつれないのは君の方じゃないですか」
『ワオ。…君、死にたいのかい?』
「クフフ、そうですねぇ。今は死にたくありませんし誰を殺してでも生きのびたい気分ですよ。何なら僕は今から君と仲良くしても『そのふざけきった髪型同様頭も良くないとは思ってたけどまさかここまでとはね。気持ち悪い。早く要件を早く言いなよ。
といっても、どうせスイのことだろうけど』
「ええ。例の白衣の男の件を聞かせてもらおうと思いまして」
『…あの子の事だし仕方ないね。後でデータを送るよ』
「借りを作るのは僕も嫌いなので何か相応のものを送っておきます」
『そう。じゃ、一つだけヒントもあげる』
「なんですか?」
『あの子、……とっても美味しそうだね。僕ですらグラッときたよ』
「………それは、ご丁寧にどうも」


04.密やかに探りましょう


所属しているとはいえまさか生きている間にボンゴレの、それも風紀財団に繋がる回線を利用することになろうとは思ってもみなかった。これも全ては彼女の為だ、仕方あるまいと納得しようと思っても雲雀の言葉は聞き逃すことは出来なかった。

『役に立てなくてごめんなさい、…先生』

思わず腕に抱いた彼女の柔らかい身体を、僅かに揺れた目を忘れられることはないだろう。

確かに桐島スイは強い。
破格の力を持っていることは精神世界にて長い期間彼女と共に修練を行ってきた骸が一番知っていた。
元々持っている彼女の術士としての力、そしてかつて彼も見たことのない量のインディゴに輝く死ぬ気の炎。力を見せてみなさいと命じ、言った通りに出したその炎の何という大きさと美しさか。初めてそれを見た時は思わず感嘆の声を出さずにはいられぬほどの炎圧。

もしかするとハイパーモードの沢田綱吉にすら匹敵するのではないかと思える圧を出した彼女は精神世界で修練を続け驚く結果をもたらしていた。表立っては見せないようにしていたが骸の方が疲弊しても尚、その輝きも圧も一切損なわれることなく彼女の身体から放出され続けていたのである。
スイは常に全力だった。否、常に炎を最大量で放出することが可能と言った方が正しいかもしれない。

『スイ、君はとりあえずその力のコントロールから学びましょう。アルコバレーノからは教わらなかったのですか?』
『…それが、』

生きた人間であれば必ず体内に流れている炎は各属性に分かれるものの、この世に生まれ落ちた時点で属性も最大量もある程度決まっている。
属性に関しては遺伝の問題もある。ほとんどの人間が副属性を有するもののバランス上リングに灯せる量に満たせない場合も、また逆に突然変異として身体の中に宿る副属性のバランスが変化し主属性が転じることも過去の症例で分かっているのでそれだけは何とも言えなかったが炎の量に関しては依然新たなデータは取れてはいない。

『…出来ない?』
『ハイ。あの、…どうやっても、抑えることが、出来ないんです』

桐島スイの異端たる所以は他属性を一切含まぬ”100%の純粋な霧属性の炎を有し”ていることであり”他の人間とは比べ物にならない量の炎の持ち主で”あることであり、それをいざ使用するものであろうならば”余すことなく100%で使用できる”ところにあった。
恐らくフランや骸自身ですら何年もかけて修練や実践をこなし己の中に宿る死ぬ気の炎を全力で出してみせようとしてもそこまで放出することは不可能だろう。
現段階においてはたった今放出されている炎圧を調べる計測器はあるが、身体に宿る炎の秘めた最大量を数値化する技術はまだ世には出回っていない。

並の人間―勿論戦闘する者において、だ―であればいくら修行をしたとしてもおおよそ7割程度が最大だというデータがある。
それ以上を出そうものならば後々に身体に負担がかかり、大概の人間の肉体はそれに耐え得る器を持っていないため修行を積んだとしても肉体そのものが全ての炎を出しきることを無意識のうちに恐れてしまうのだという。炎を全て出しきった先は、死が待ち受けているのだから。

『では質問を変えましょう。スイはその力を出し切った事はありますか?』
『…いいえ、ありません』
『使っているうちに疲弊したことは?』
『いいえ。……ありません』

それを上回る割合で放出するのであればそれこそ本当に死ぬ間際の火事場の馬鹿力なるものであったり、ボンゴレの特殊弾、もしくはボンゴレの10代目ボスである沢田綱吉のハイパーモードぐらいしか現状考えられなかった。
とはいえその沢田も幾度となく越えてきた死線、はたまたボンゴレに伝わる力の継承で枷を外されたことによるものの恩恵があり今に至るという彼なりの歴史がある。

だというのに元々一般人である彼女がそんな彼と同等以上の力を、そしてあれだけの炎を放出させながら枯れることなく湧く炎の量を持っているのは最早奇跡に近い。
その上術士の力すらも持っているとなるとこれは将来、自分たちとは比べようもない、見たこともない術士が生まれるのではないかとも思えるのだ。そう考えると骸のような策をかつて考えたような者ではなく平和主義の彼女がその力を有しているのは多少勿体無いとさえも思えてしまうのは仕方の無いことなのだろう。

「骸さま」
「…ようやく集まりましたね」

クロームの声で骸の思考は一気に現実へと引き戻された。
あの後、やはり彼女は白衣の男の件が恐ろしかったのか骸の抱擁を大人しく受け入れ、黒曜へと帰った後はフランとクロームから熱烈なスキンシップを受け静かに寝付いてしまった。困ったのはクロームだろう。いつもは一人で寝かせてくれと頼む側であったスイが今日に限っては一緒に寝ていいかと枕を持って彼女の部屋へとやってきたものだから骸の招集に駆けつけなければという義務感とスイと一緒に眠りたいという欲望で大層揺れていたらしい。
最終的にスイがしっかりと眠ったことを確認し、若干不服そうな顔をしながらやってきたクロームを見て骸も思わず苦笑いを浮かべずには居られなかった。彼女もフランも、勿論自分もそうであったがスイはどうやらとんだ曲者達に好かれてしまう気質であるらしい。

辺りを見回すと皆は静かに床へと座っていた。
何が起こるのか、何を言われるのかさっぱりわかっていない様子のフランとクロームにはどう説明をしようかと悩むも取り敢えず聞いておかなければならぬことがある。

「まさかとは思うがお前達あんな分かりやすいトラップに気付かなかったのですか?」
「…違うんですー」
「あちこちに張られているんです、骸さま」

どうやら思ったよりも鈍感ではないことに多少は安心しつつも骸の眉間の皺が緩和されることはなかった。
気が付いていたのであれば尚更、何故こんな事態に陥ってしまったのか。
彼等もまたその件に関しては言いたいことも聞きたいこともあったらしい。いつもこういった場では静かに話しを聞いているかそもそも会話にすら参加もしないフランが珍しく積極的に話す。

「何度も壊すんですけどーまた次の日には張られているんですーまるで蜘蛛の巣みたいにー」
「…クモの巣、ですか」
「あんなに分かりやすいのに、…でもスイは、気がつかないんです」

彼等は彼女の強さをやはり骸と同様身を以て理解していた。
しかしあまりにも強い力であった為嫉妬するどころかその強さに憧れを抱いているところもあることも骸は知っている。強すぎる故に危うい。彼女の脆い精神はその尖りすぎた力にやがて身を滅ばされてしまわぬかと感じてしまうほどに。
心配する気持ちは恐らく皆、同じだろう。犬と千種に関してはどうでもいい、といった感じであることは否めないがそれでも骸が気にかけている以上彼女に対しても無関心ということは出来ない。

「骸さま、あれは一体、」

クロームも、フランも、それから後ろに控える犬と千種の視線が一斉に骸へと注がれる。別段彼等には話しても問題のないことだ。だが、それを知っても彼女…スイへの態度が変わってしまっては元も子もない。
どこまで話すべきか。悩んでいるのはそこであった。

しかし彼らにも手伝ってもらわなければならないこともある。隣の部屋ではすよすよと一人スイが寝ていて、その裏でこうやって彼女の話題をするのはまるで彼女一人に隠し事をしている気にもなってしまうがこれもスイの為だ。仕方あるまい。
彼女を二度と、傷つけさせるものかと。壊す訳にはいかないと。仮説であったはずのソレが雲雀恭弥に送られたデータによってそれが現実味を帯びてきている以上、このまま野放しにするわけにはいかないのだ。

「…あれは十中八九彼女を狙ったものでしょう」

煩わしい。どうしてこうも邪魔だてばかりをしてくれるのだ。
己の欲の前には他人の幸せ、他人の生活というものを躊躇いなく奪い、汚していく。決して自分が正義の味方になったつもりでも、なろうとも思ってはいなかった。ただこの部屋にいる人間は自分のもので、そして隣の部屋にいる人間もまた、自分の物だ。他人に渡しはしない。
汚らわしいそれらが全て壊滅してしまえばいいと言う考えは今も変わりはなかった。しかしそれ以上に、

「彼女を守りたいのであれば皆、…協力してくれますね?」

その場にいた人間は黙って、しかししっかりと深く、決意を秘めた目で頷いたのであった。

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