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 それからの流れは私が求めていた通りのものだった。
 チェルベッロにより明日の23時に並盛中学へ集まるよう全員に伝えられた後、私はベルに俵持ちで運ばれ幹部達が泊まる豪勢なホテルへと連れてこられてしまった。行きと同じくゴーラ・モスカがよかったのかと言われればやっぱり中身を知っているしこれは私の最大の天敵だからお断りだったんだけど年下に、しかもこの持ち方はなあと思ったのは仕方のないことだと許してほしい。痛覚が生きていたら多分ベルの肩がお腹に食い込んだ気持ち悪さと酒のせいで嘔吐していた可能性だってある。
 とまあそんな情けないことは何とか避けることが出来た今、ゴーラ・モスカは私と同じ部屋の端っこで静かに動きを止めている。私はあそこに入れられ起動した後、すぐに自分の炎が尽きかけ死にかけた訳だけど9代目はやっぱり死ぬ気の炎の量が多いのだろうか、それともあの時の私が少なすぎたのだろうか。雲戦が始まるまではずっとその調子でいなければならないと考えると同情すら思うものの、かと言って私に何かが出来るはずもなく、そして苦手だという意識は変わらないので睨みつけるだけでとどめておいた。だけど、…そうだなあ私はもっと自分の身体について知る必要があると言うことをようやく理解した。

 ベルによって随時供給を受ける形になっている今、確かに私がヴァリアーにやって来るまでの自分の蓄えがどれだけ少なかったかよく分かる。空のリングが少し色付いて程度じゃ駄目なんだ。てっきり私はそうだとばかり思っていた。
 でも違った。
 恐らくあれぐらいだったら何も危険な目に合うこともなくという前提条件があれば問題はなかったのだろう。だけどヴァリアーの建物に居た時のような3階から飛び降りさせられたりするような事があるのであればあれじゃ全然足りていない。ベルとよく遊んでいたゲームで言えば常にHPゲージが点滅していたところで何とか敵と遭遇せずに逃げ回っていただけにすぎず、あれでも恭弥に貰わないようにと説明せずにいたのが奇跡に近い。瀕死状態であっても自分の身体はそう感じることが出来ないのだ。これからは自分でリングの色もよく見ておく必要がある。

「ししっ、あいつらの顔みたー?お前の言葉如きに傷ついてやがんの」
「…それは無いんじゃないかな。向こうは私のこと知らなそうだったし」
「人違いは困るよ!君の言うランチアって人も知らな 「やめてくださいごめんなさい」しししっ、あーおもしれーの!」

 もうやだこの子。全然勝てる気もしないしそれ私のモノマネって言うんなら結構ひどいからね!?
 はあと大きく息を吐き、ソファに深々と座り込むとすっかりと太陽が間もなく落ちようとしている夕日を窓越しに見上げた。ちなみにホテルでは空いていた部屋をもらえたわけだけど両隣には誰か幹部が居る。ホテルの最上階だったしさすがにここから飛び降りるなんて自殺行為は考えられないので大人しくするしか方法がない。それに気付いた昨夜は絶望したよね。

 正直あれから一夜経ったけどおかげさまで寝不足だ。日本に戻ってくるジェットでお酒を飲んだせいなのか、昨日は確かにちょっと話が飛躍して取り返しのつかないことを口にしてしまった気がしている。スクアーロにどう煽られたところで私は何も話すべきではなかったしツナに何も返すべきではなかったんだ。だというのに感情的になってしまって、自分から話しかけてしまった。彼らとしてはよく分からない人間が居たという認識をしてしまったんじゃないかと思うと胃が痛い。
 これから皆がどうなるか分かっているのに私がどうなるかということだけは相変わらずわからない。私の記憶が正しければ今日はルッスーリアの日だ。そういえば京子ちゃんの兄である笹川了平は写真以外では初めて見たっけ。23時、並盛中学校。今日から1人ずつ、どちらかが勝ってどちらかが負ける。ほとんど全員が傷を負い、血を流し、一部の人は入院するほどの大怪我をする。そして最終、どちらかがボンゴレリングを手にするか決まる。とても単純なルールだけどそれが決して簡単なものじゃないとわかっているからこそ憂鬱なわけだ。

 何しろこちら側は殺しのプロ、向こうはほとんど一般人。

 ただし、と注釈をつけるのであればあちら側が主人公だ。友情、努力、その先の勝利。それを勝ち取るための敵としてヴァリアーがある。誰が勝利し、誰が敗北するのかを知っている私はそれまで黙って見続けなければならない。…せめて私がヴァリアーの人たちを知らなければ、と思うことはあるよ。漫画で見ただけなのであれば、恭弥のそばにいるだけだった私ならばそこまで細かく考えることはなかっただろうし、そもそも誰の勝利も興味はなかっただろう。大人しく家に籠もり、皆の怪我を憂うだけでいられたはずなのに。
 なのにこの世界、今度はヴァリアー側に私を配置した。
 いわゆる日常編の時は並盛側に、黒曜編の時は骸側に、そして今回はヴァリアーだ。元々この世界に関わらせるつもりがないのであれば最初からすっぱり離してくれればいいのに微妙なラインで関わらせるなんて何と気分屋なのだろう。そして意地が悪いときた。

「…ベルは相手がどんな人なのかとか興味ないの?」
「ま、ヨユーだろ。負けるわけねーし」

 これが勝利を信じている人達の余裕。この間にも並盛側の守護者達は死ぬ気で特訓をし始めメキメキと力をつけ始めている。とは言えたかだか数日の特訓だ。アルコバレーノやディーノさん達の助力があったとしても長年暗殺部隊として生きてきた彼らを負かすこが出来るだなんて結果を知っている私は特に信じられなかった。だってツナ達、死ぬ気モードにならずあんな動きで移動できる? 人を傷付けるのに躊躇わずにいられる? 武器を自分の身体の一部みたいに扱える?
 1年前の中学1年の時にやってきたリボーンの指導の上、少しずつ鍛えられていたかもしれないけど恐ろしいのはそれについていける土台があったということ。そうじゃなきゃ1勝も出来ずにヴァリアーに指輪を全て奪われただけで終えただろう。

「あーでも藤咲は留守番らしいぜ」
「そうなんだ」

 ナイフを弄るのはクセなんだろうか。私だったらあんな風に扱ったところですぐに怪我しそう。
 でもまあ行かなくていいというのは助かる、かな。リボーンという漫画は好きだったけどそれとこれとは話が別だ。漫画やアニメだからこそ見れることはあっても実際戦っているところなんて見たら心臓に悪い。それにもうあまり並盛の人には会いたくはないわけだし。

「つー訳で」

 ドスン、と鈍い音が耳元でしたのはその時だった。いつも思っていたけど痛覚がないという事はこういう時に面倒だな。いつの間にやら私の前から背後に回っていたベルが何か私にやらかしたということは分かったけど…多分、スクアーロと同じように殴ったんだろうな。感じられたのは衝撃と機能の低下。ぐらりと揺れた視界がすぐ赤と黒の彼の衣服で埋まった時には既に遅くただ私は大人しく目を瞑るだけ。
 「オヤスミ」まるで子供を寝かしつけるように聞こえた優しい声は、幻聴か、否か。



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