06



 どうしてこれが手元にやってきてしまったかというとそりゃもう間違いなく例の修行が始まるからなのだろう。
 私は直接そのシーンを目にすることはなかったけれど恐らくスクアーロを退けたツナはリングの説明を受けているはず。その後、守護者にはこのハーフボンゴレリングを送られているというわけだ。もちろん彼には大空のリング、山本には雨、隼人には嵐、といった風に。雲が恭弥だということは知っていたし、中身を見るまでもない。確認するまでもない。
 だけどこの家に恭弥宛のリングが置かれたってことはつまり、…この場所を知られているというわけで。ということは私のことも知られている可能性がある。いや、私のことなんて知られたって別にどうもないから良いんだけど。でも…そうだな、例えば『このリングを恭弥に渡さない』『恭弥がこのリングを送られたことに気付かなかった』可能性を彼らは考えなかったのかと思うと少し不安にもなる。それならば直接応接室に届ければ確実なのに。気付かなければ気付かなかったで再回収して改めて渡すつもりだったのだろうか。

(…このリングさえ、なければ)

 この世界は私の知っている漫画の世界だ。何月何日に何が起こるかという話は相変わらず覚えていないし、むしろこの最後に漫画を読んだのがずいぶん前になったせいで細かな記憶はほとんどないわけだけど間違いなくこれから彼らが巻き込まれる話全てにこのボンゴレリングがついて回る。
 ということは、だ。考えてはいけないとはわかっているけどこのリングさえなければ彼らは普通の中学生活を送ることができるし、大きな怪我を負うこともないだろう。平和な日常に浸ったままでいられる。リングを私はこのまま破棄してしまえばリング戦がおかしくなる。トゥリニセッテも狂っていく。まあ、もちろんそんな大それたことができるような人間じゃないんだけどね。でも黒曜編で恭弥が傷だらけになった時のことを考えるとやっぱり憂鬱なものは憂鬱でしかない。

「…さっきからなに百面相してるの」
「……まあ、色々あるんですよ恭弥さんや」
「ふうん。それってさっきのカレンダーと関係あるんでしょ」
「うん、…まあ、そうですけど」

 分かりやすすぎるのか、恭弥が過敏すぎるのか私には分からない。もう何だかそういう雰囲気を恭弥が作ってくれているのはわかっているからそれに甘えることにして私はようやくポケットから封筒を取り出し、それをテーブルの上に置く。食事を終えた後の恭弥がそれを取り出している間にさっさと食器をシンクに重ね、私は改めて恭弥の前に座った。

「何これ」
「それが次に必要なアイテム」
「いらない」
「言うと思った」

 予想通りのリアクションをどうもありがとう。
 そりゃそうだよね。中学生の男の子が突然不思議な形をした指輪を送られて不審に思わないわけがない。私だってもしも恭弥の立場なら警察案件である。だけど私からそれを説明するわけにはいかず恭弥がつまらなさそうな顔をしてそれをいろんな角度で見ているのを見守った。ぐっと引っ張られまさかの恭弥によってリングを嵌められたけど私の指にはやっぱり大きく、引っかかることなくコロンとテーブルの上に転がった。…そういえばこのリング、どうやってサイズ合わせているんだろうな。
 とにかく、渡したことで第一段階は達成した。
 問題はこの後、明日どうやって学校に持っていってもらうかだ。恭弥の性格上こういう風紀を乱しそうなものは持ち歩くことはない。むしろ置いていくか捨てるだとかそういう可能性も否めない。だけど私がここで言うわけにはいかないのは、私はその役割ではないからだ。ええと、…確か恭弥の相手はディーノさんだったかな。だからきっとリングの説明も彼からになる。なので私が出来ることといえば恭弥の邪魔にならないよう、そっと後押しをするぐらいなのだ。いや結構それだけでも大役だとは思うんだけどね。

「それを明日学校に持っていくと強い人と戦えるんだよ」
「……」

 いらないと興味を持つこともなかった恭弥が私の言葉を聞くなりぴくりと反応する。それから、楽しげにふうんと笑う顔。これが私の知っている雲雀恭弥だ。戦闘狂といえば聞こえはあまりよくないけど実際そうなのだから仕方ない。戦うことが好きなのだ。

「ゆうはこれ、もらってないの」
「まさか。私は見ているだけだよ」
「ふうん」
「…いや、ほらあの…前回は、どちらかというと巻き込まれただけだしね?多分、今回はさすがにないと思うよ」

 前回の黒曜編、私は一度自分が元いた世界に戻ることができた。それから再度この世界にやってきた時は並盛スタートではなく隣の黒曜で始まってしまい、敵側であるはずのM・Mに匿ってもらった。そこから何とか並盛に戻ることはできたんだけど結局その後、城島や柿本に見つかり黒曜へと連れていかれることとなって、恭弥と再会できたのは黒曜編の途中…むしろ、終わりに近いところだというわけだ。
 つまり恭弥は私に対してどうしてもそういった厄介事に巻き込まれるという印象を持っている。だから今回もそうなのかと言外に問われているわけだけどこればかりは私だって分からないのだから答えようがない。だけどきっと大丈夫なんじゃないかなと思えるのはやっぱり今回に関しては最初からここ、恭弥の傍にいるからだ。

「今度こそ恭弥に迷惑かけないよう気をつけるって」
「どうだかな。君はすぐ変なのに好かれるから」
「…変なのって」

 いや多分、間違いなくこの場においては骸のことなんだろうけど。あの人は好かれたというか便利な道具として思われただけなんだけど今あの話を蒸し返すのもよろしくないと苦く笑って流す。それ以上恭弥は特に言うことがなかったらしい。リングを持って立ち上がり玄関へと向かうのを見て慌てて私も見送るために立ち上がる。

 ここでとんだ矛盾が浮かぶのだ。
 いい加減自分のこのどっちつかずというか、覚悟の足りない情けない性格をどうにかしなくちゃと思っているんだけどこればかりはどうしようもない。だって私は戦える人間じゃない。強い人間じゃない。知っている人が傷つくのも嫌だし、できれば皆、笑って生きて欲しいと思う。それが世界のためだ何だと言われたところで私は周りの人間さえ平穏に過ごしてくれればそれでいい。
 …本当は頑張ってとか応援しなくちゃとかならないとわかっているのに。行って欲しくないと。傷付いて欲しくないと思うのはわがままなのでしょうか。戦って欲しくないのだと、やっぱりソレを壊して欲しいと言いたくなるのは許されないこと。
 だけど、…だけど。



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