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しり。


震える手で睡眠薬を盛った最後の手立て。みっともねー。
マーモンには愚かだとか何とか言われたけど仕方ねーじゃん、それしか思いつかなかったんだっての。

眠ったユエの姿を見てこれで傷つける言葉も言わなくて済んだことに安堵したし、運んでいる最中はその軽さと柔らかさに唖然とした。俺、こんな弱そうなこいつのこと殺しそうになったんだろうなって。
久々にユエの部屋に入ったら全く何にも変わっちゃいなかった。天蓋付きベッドってお姫様みたいだね!って嬉しそうに俺の部屋のと同じタイプにしたヤツそのままだったし、その割に現実的にいつ狙われてもいいようにって生き残るために枕の下には銃を置いてあるのも知ってる。
ユエの髪を触りながら、この薄い身体は一息で活動を停止させられるんだなって思うと無性に怖くなった。まだまだ起きる気配のないこいつの寝顔だけでこんなに落ち着くなんて思ってもみなかったんだけどな。

暇つぶしに部屋の中をワイヤーで張り巡らしてみる。ユエにもコレ教えてやりたかったんだけどあいつに傷をつけてから俺は一切自分の武器を触らせてない。
粗方飽きたら今度はユエの膝の上に乗って寝顔を観察した。別に絶世の美女ってワケでもないし色気があるってワケでもない。なのに何でこいつはこんなに俺の中に居座るのか不思議で仕方ない。

なあユエ。
ユエ。俺、お前の事好きなんだぜ?ずっとずっと。
おまえのこと本当に愛してんだけどどうやったらこれがどうやったら伝わるんだろな。お前に伝える術がわっかんねーんだ。早く気付けよ。


「覚悟し…なさい?」

突然起き上がったユエは俺の予想以上の速度で俺に銃をつきつけた。生き残るためにって蓄えた力ったやつ?びっくりした顔も俺は結構好き。ししっ


「もしかして、運んでくれたのってスクアーロ先輩?」
「に決まってんじゃん。お前重そうだし、王子重てーの持たない主義だし」


嘘だし。全然重くないし軽いし、寧ろあの時よりただ食ってるだけじゃなくなったからほっそりとしてるし。けどスクアーロの名前を出したことでちょっと苛立った。お前の中からあいつのこと消してやりてーぐらい。
なのにどう思ってんのかって聞いたっていうのにまた意味の分からない返答をしてきたもんだから更に苛立ちは募るわけで。お前あいつとデキてんの?まあそうであっても奪えばいいんだけどさ。


「私はあの時、檻から出たあの時からここの組織に命を預けた。貴方達を裏切るなんて…っ!」


ちげーし。そんな根本なところ、とっくに認めてるっつーの。

ああ、もう。何でこんな伝わんねーんだこの馬鹿。俺もう限界。
ユエの細い肩を掴んで押し倒した。さっき後ろに置いた銃が丁度ユエの傷口に当たったのかユエの目尻には痛みの所為なのか涙が浮かんでいた。
痛みで俺のことをいっぱいにするのも別に嫌じゃねーけどさ、俺はもっと違う方を望むワケ。わっかんねーかなあユエ。


「…ベル、どうしたの?」

びっくりしただろ。だからお前も手伸ばして王子に触れるんじゃねーよ。
俺も泣きそうなんだけど。


「俺さ、ユエ」

冷え切った手はお前に触れていいものか。逡巡してる間もなく俺は欲望のままにユエの頬に触れた。やっと触れられた。その柔らかい頬は少しだけ熱い。ああ、生きてんだな。この薄い皮の向こうには血がドクドク流れてんだよな。俺、こいつのこと殺してなかったんだな。なんて。

触れた手は振り払われなかった。嬉しそうに目を細めながら俺の手に擦り寄ったように見えたのは俺の妄想かもしんねーけどもう俺知らね。良い匂いするし、ずっとずっと我慢してたし。ユエは何か言いたそうだったけどそんなの後で聞いてやるから。

重ねただけの口付けは、それでも俺の中に巣食ってた泥とか、重い石みてーなのかとかそういうのを全部吹き飛ばしちまった。
バカバカしい。何か色々難しい事考えてたけどさ、俺こいつにただ触れたかっただけかよ。しししっ、俺ってほんと健全な男子。


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