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り。


触れた唇は思ったよりも熱く、それでいて私に安堵をもたらした。
不思議。言葉、何もなかったのにその行動一つで私の中に何かが入ってきたみたい。

ゆっくりと離された唇はさっきまで言いたかったことも、わだかまっていたものも、何もかも奪い取ってしまった。いつも適当だし我侭で人のこと振り回してばっかりだっていうのにどうしてこんな時だけああ本当に王子様なんだ、って思えるぐらいゆっくりとした手つきで泣きたくなる位優しいんだろう。

離れた熱がとても惜しいと思えた。
何だ、私、ベルに触りたかっただけだったのかもしれない。ベルの頬に手を添えて離れていく唇に自分からも重ねると目の前でベルが目を見開いたのが分かった。自分からやっておいて驚くってどういうことなの。
その反応が思ったよりも自分でも気恥ずかしくてすぐに離れて視線を逸らすと今度はベルの笑い声が聞こえてきた。


「…しししっ、ユエ顔真っ赤」
「るさい!」

さっきまでどうにか隠せていたというのに今度こそ耐えられる訳もなく心臓は早く動いているし顔が赤い自覚もある。悔しくなってお返しとばかりに未だ上にのしかかるベルに軽口を言ってもさっきより笑みを深めるものだから仕返しにすらならなかった。

見えない壁も遠い距離もいつの間にか無くなっていた。
もしかしたら未だ何か少しずつわだかまりがあるかもしれない。けれど、今なら何でも越えられるようなそんな気すらしてきた。


ねえ、ベル。
ベル知ってた?私、貴方が私達を檻の外から見ていたときから、あなたのことが好きだったんだよ。気付いて欲しいなんてそんな大それたこと思わなかったし、何よりあなたに追いつくことで精一杯だったからそんな事を思う暇も無かったという方が正解だったのかもしれないけど。
幹部になってからあなたに少しでも追いついたと思ってた。間違いだった。やっぱり天才なだけあるよね。背中見えたと思ったのに、どんどん遠くなるばっかりなの。全然追いつけないの。ねえ、私もっと強くなるからもっと一緒に隣にいたいんだけど、許してくれるかなあ。


「あーもー王子疲れた」
「私も疲れたよ」
「いつから」
「教えない」
「生意気」
「ベルも負けてない」

いつの間にか同じ方向に気持ちが向いていただなんて誰が知っていただろうか。いや、先輩はわかっていたのかもしれない。

怪我をしたあの日、先輩がベルのこと怒鳴りつけて怒ったみたいなんだけど私ってそんなことよりもあの子が死んだ時みたいにベルって血に興奮してくれるのかなあって言ったら私も怒鳴られたことを何故か今思い出した。結局ベルのことばっかりでどうしようもない。

何てことのないやり取りの後、ごろりと私のベッドに寝転がったベルと目が合う。今日はやけに心臓に悪い日だ。今までこんなに心臓が高鳴ったことなんてなかったのに。

くすぐったい気持ちになって目をそらすと頭を撫でられた後、指を絡められた。待ち焦がれていたベルの手は私の胸をこんなにも柔らかく甘く締め付ける、いつもと違ったその表情にどうしようもなくときめいた。
相変わらず目を合わせられずに、でも手を離すことはできないもののゆっくりと湧き上がる羞恥。


「ね、ねねねねえベル」
「ん?」
「…なんか、すっっごい恥ずかしいんだけど」
「しししっ早く慣れろって」

どうしよう、幸せすぎて、胸が苦しいんだって訴えてみてもきっと彼は笑うばかりなんだろう。
この苦しみならばいつまで続いても構わないんだけど、今はもう少しだけ浸っていたい。何も分からずにずっと悲しんでいたあの時とは違うのだから。

それでもベルが隣にいる安心感からなのか、ゆるりゆるりとまどろんでいく。
ああ、後で先輩にちゃんと報告、しないとなあ。なんて。ベルに言ったら放っとけって怒られたけどその声音も優しくって心地良い。


「オヤスミ、ユエ」
「…お休み、ベル」


後は起きてから考えよう。噛み締めよう。

未だ離れず絡められた指の温もりを、その温もり以上のあふれるこの気持ちの名前を、

unknown
まだ、誰も知らない。


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