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ずき


私の命は0.5人前。片割れだからだ。
でもベルは強いから同じ片割れ同士でもきっかり1人分。そういう計算が許される世界に私は身を置いていた、その覚悟はあった。


「っ」

痛むのは、あの時ベルに刺された背中なのか、それとも。
あの日からベルが私に対して少しだけよそよそしくなっていることは私しか知らない。
ベルの部屋に行くと嫌がられてすぐに追い出されるし、同じ任務になってもさっさと終わらせてどこかに行くし部屋に呼んでも避けられるし。
喧嘩をしたつもりもなければ悪いことをしたつもりもない。どうして彼が私と距離を取ってしまったのか分からなくて先輩に相談をしたこともあるけどお前らでどうにかしろと困った顔で追い出されるだけだった。
それでも先輩は私のわだかまったこの気持ち全てを嫌な顔をせずに聞いてくれていたっけ。


「…ベル、どうしたの?」

触れた手を振り払われることはなかった。そういえば彼の顔を間近で見るのは結構久しぶりだった。
いつからだっただろう、ベルとあまり話をしなくなったのは。いつからだろう、ベルのことを目で追うようになったのは。

私がヴァリアーへ来て檻の中であの子と死闘を繰り広げている間、幹部の面々が私達の命に金を賭けているのは知っていた。それでもよかった。生きる為なら何をするのも厭わないと感じさせられたあの数日間はある意味生きたいと思う気持ちを身を以って教えてくれた。
檻の中、一番私達を楽しげに見ている人、それがベルだった。別にその視線が煩わしいと思ったこともない。ただ私の代わりにあの子が死んだ時、ずっとその場で立ち尽くすベルを見て”ああ羨ましい”なんて思った事は内緒だ。

最初、私の面倒を見てくれたのはベルだった。だけど幹部に上がってからは特に見えない壁を感じてた。近くにいるのに距離を感じていた。
ベルが暴走したあの日、私は初めて彼の暴走を真正面から見たけどベルは私だけを見ていた。その時のベルは完全に無意識状態だったけど私だけを映し、そのナイフをふるった。
後日先輩から聞いたところ私が気絶してからベルの動きが鈍ってその間にルッスが手刀を入れベルも気絶させたらしい。
痛みと共に理解したことがある。彼は私に何か言いたいことがある。それが気に食わないものなのか、はたまた私の想像もつかないことなのかは分からないけど。いつか話してくれると思って、私はずっと待ってたっていうのに。

結果、ベルにこんな顔をさせているなんて。どうしよう、こんなつもりじゃなかった。


「ごめんね、私バカだから何も分からないの」
「知ってた」
「うっ」

それは即答なんだね、分かってたけど。


「…俺さ、ユエ」

ベッドに仰向けになった私に圧し掛かるようにして見下ろすベル。
髪の間から見えたその瞳は静かなものだった。一緒に昼寝をしていた時とか実はちょっと気になって覗いたこともあったけど勿論そんな時は目は固く閉じているわけで。
久々に近いベルが、どうしてもいつもと同じ人にはみえなかった。いや、人間なんだけど、そうじゃなくて、ちょっと男の人みたいっていうか、もちろん彼は生まれたときから男の子なんだけど。そうじゃなくて。

ひたり、と冷たい手が私の頬を覆う。
火照った頬にそれは気持ち良くて思わずすり寄せるとベルの目が見開いたのが分かった。ふわりと近付くベルの顔。
あ、なんて出そうとした声はそのまま彼の唇によって飲み込まれた。


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