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り。


風が動いた。そう思った時、ふとユエの方を見た。
理由とか全然なかったし、寧ろ気がついたらあいつのことを視線で追っかけるくせがついたってそれだけだったし。
あーめんどくさいナイフの手入れなんて後でやればよかった。けどここまで出したら途中で直してあっちの輪に行くのなんてめんどくせーし。まるで俺が1人で居るの寂しいみたいになってんのも絶対に嫌だし。
何もかもムカつく。

あいつは、笑ってやがるし。

知ってる。あいつ、誰の前でもああやって笑ってんの。相手がお前だから笑ってんじゃねーの。分かったらとっととどけよ先輩。ユエが見えねーだろ。
ガシャガシャと音を鳴らしながらこびり付いた血とか拭う作業もそろそろ面倒臭くなってきた。この後ワイヤーだって手入れしておかねーと切れ味悪くなんだよね。オカマみたいに筋肉バカにはなりたくないけど武器のメンテいらねーのってちょっと羨ましいよな。


「ベルそれいつ終わるの?」
「あ?」
「ずっとやってんじゃん。後で遊ぼうよ」

声をかけてきたのがもしユエじゃなかったらこんな事にはならなかった。
最後の一本、拭いていたナイフが俺の手から落ちるなんて王子らしからぬ大失態。


「あ」
「っ、ユエ下がれ!」

今日のラッキーアイテムは銀細工の何かとか言ってなかったっけなー。
スクアーロの焦った声が俺の記憶の最後。





気が付いたら血の惨劇になってた。手入れしたてで切れ味抜群の俺のナイフはまた血まみれになってた。
全然楽しくなかった。全然面白くもなかったしスカッともしなかった。泥水飲んだみたいなドスッと腹に重いものが入っちまったようなそんな感じ。

スクアーロが珍しく俺の胸元掴んで怒鳴ってたけど、ルッスーリアが必死に止めてた。ぼんやりとしてて覚えてないけど気絶を挟まないと血を流した俺は止まることがないらしい。
それでも血を流す時って大体任務の時だし、相手は絶対敵だし問題は無かった。こんな場所で怪我するなんて思ってもなかった。

視線をスクアーロから外すとユエが談話室のソファで寝かされていた。白いシャツは赤く染まって、息も絶え絶え。顔が青いのはきっと血を流しすぎたせいだろう。
ユエがまだ仲間になる前に興奮を覚えたあいつの片割れの血は、俺に興奮を与えることはなくむしろ見えないダメージを与えてた。
俺はされるがままにスクアーロの怒声を聞いてたけどこれっぽっちも入らなかった。


「…た」
「あ!?」
「…ユエが、死ななくてよかった」

ぽつりと小さく漏れた王子の本音。声、震えたかも。しししっ情けねー。
スクアーロにも聞こえたかわかんねーけど、何ともいえない顔をしてそうだな、って返されて手を離された。俺、痛いのキライだけどこの時ばかりは殴られてた方がマシだったんじゃね?って生まれて初めて思った。それぐらい腹の中ではどす黒い何かが溜まり始めていた。
眠っているユエの顔を見て、俺はこいつに近寄りたいけど近寄れば傷付けるしどうしようもないよなーって、始まってもないのに終わりを感じたっけな。

手、伸ばせねーの。俺、こいつに触れられねーよ。


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