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むしゃ


この女はうちに来た時からよく食べた。それもきれいな食い方じゃない。
ボスとおんなじ食い方をする、色気より食い気の暴食女。俺が席について朝食を運ばれ、食い終わるまでのそんなに長くもない間に何枚も重ねられる皿、野菜より魚より肉をゆっくり咀嚼するというよりは噛みちぎる様で料理作ってるヤツからすりゃ嬉しいんだろうなって思えるぐらい良い食いっぷりだ。
スクアーロですらおっかねえ女とドン引き、ボスはこれぐらいじゃねーと面白くないと笑っているのを横目で見ながらこいつとの出会いを思い出していた。


ユエがやってきたのは3年前。珍しくボス自ら動いた遠方の任務で捕まえた2匹の雌の内、1匹がこいつ。もう1匹は死んだ。
捕まえた当初は檻の中で飼って2人揃って拷問かけてたみてーだけどどっちか片方生かすだけでいいだろうって言ったら檻の中で壮絶な殺し合いが始まった。皆でどっちが生きるか賭けた。俺はもう1匹の方が従順だったし気に入ってたからそっちにした。だけどそっちは保身に走っちまった。ボスに命乞いするのは一番ギルティだって教えてやりゃ良かったかな。
「お前の気持ちはわかった」なんて、普段絶対言わねーその優しげな声と一緒に笑ったボスの赤い目が綺麗だったのを覚えている。俺たちは黙って審判の日を待った。

結果、バーン!

間近から俺のお気に入りの眉間に1発、血飛沫ぶしゃーつってさ。まさに血の雨って感じ。俺久々に人の血で興奮しててメイドが片付け終わるまでそれ見てたっけ。


ボスはそのまま何を思ったかユエを仲間にしちまった。
本当は死んだもう1匹の方が不殺命令入ってたらしーんだけどバレないからいいかって。こいつ一卵性双生児。声も目も顔も身体もぜーんぶそっくり。んでボスのお気に入り。
王子も双子だったから何となくわかんだ。片側死んだらすっきりしたろ?って。
檻の中でこっちは片側からの攻撃を避けてばっかりで全然楽しくなかったけど、女だし情に脆いヤツ多いし正直甘っちょろそうだったし泣くんじゃねーかなって興味本位。お気に入りが死んだから八つ当たりも含め、泣かそうと思ってわざと言ったってんのにユエは目を細めて「そうだね」って返しただけ。
その目つきが俺はどうしようもなく気に入って、その日から2番じゃなく1番になった。

ユエは性格も温厚な方だし何でもねーんだけど生に関してはハイエナみたいに貪欲だった。こいつ攻撃を避け続けてたってことは実力もあのもう1匹よりも格段にあったってことで。ボスは実力もハイエナなとこも見抜いてたんじゃねーかな。ボスってマジすげー。


――とまあ俺の、ユエへ対する感情っていうのはここから変化したってワケだ。つまり殆ど最初っから俺はこの雑魚に惚れたってこと。
なのにこいつときたら弱いままで良いってんのに馬鹿みたいにスクアーロに剣術習い始めたりオカマに体術の云々を教わったりしてがむしゃらの3年を過ごし、今に至る。


『ベル!私幹部になったんだ!』

マジふざけんな。今まで俺の下に誰も居なかったから突然俺の1番は俺の唯一の後輩になった。
この気持ちお前にはわかんねーよな?守ってやってもいいって思ったヤツが同等の地位についたときの、このモヤッとした気持ちっていうやつをさ。


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