きらり。
月の光に照らされ輝くのは私の膝の上に乗っているベルのティアラだけではない。
その後ろ、私の部屋には何故か彼の得意武器であるワイヤーが幾重にも張り巡らされキラキラと輝いていて寧ろアートに近いんじゃないか。天才である彼の手ならばそれを張っておくのにそんなに時間が掛かってやいないだろうけどそれでも何故と脳裏に疑問符が並ぶ。
何故。
どうして。
彼は同じ幹部であり、ひとつ上の先輩であり、そして彼にとって私は一番興味のない、可愛げのない後輩だったはずだ。
「えっと」
その綺麗な顔に向けられていた銃を慌てて降ろす。身内殺しは重罪だ。私が今寝ぼけたまま引き金を引いて彼を殺してしまえば私の身体は明日には無い。幹部歴の長いベルが逆に私を殺したところで少し怒られるぐらいで終わるんだろうなという程度に私達の命の重さは全然違うのだ。
そういえばよくよく考えればどうして私は自分の部屋にいるのだろうか。さっきまでご飯を食べていた気がするしボスやスクアーロ先輩と明後日の大型任務の人数配置について討論していた気もするというのにどうして私は私室にいて、それもベルがこの部屋にいて、そして私の上に圧し掛かっているのだろう。
「もう起きたのかよ」
「…」
「お前突然寝たからスクアーロびっくりしてたぜ」
「もしかして、運んでくれたのってスクアーロ先輩?」
ぴくりとベルの頬が僅かに動いたのを見逃すか否か。
機嫌がいいのか悪いのかわからないこの状態で何だか息のし難いこの空間でそんな事を指摘すればあそこできらきら輝いたワイヤーの餌食か彼のポケットに忍び込ましてあるだろうナイフで切られかねない。一瞬の考えの後、気が付かないことにした。
「に決まってんじゃん。お前重そうだし、王子重てーの持たない主義だし」
「こう見えて平均よ失礼な」
軽口を叩きながら先輩に迷惑をかけてしまったのかと思うとものすごく心苦しい。声は大きいがとても優しい人なのだ。
それに最近は先輩に相談まで乗ってもらっている有様で、何から何までお世話になりっぱなしな訳で。ああ明日になったら何て謝りに行こう。
「…お前、先輩のことどう思ってんの」
「え」
突然の質問に顔をあげると思ったより近くにベルの顔が迫ってきていた。
膝の上に圧し掛かられたけどそれは私の太腿の上に移動してきていて痺れからは若干遠退いた代わりに今度は心臓が跳ね上がる。
ベルの整った顔が、見たことのない近さで。
月夜に煌めくワイヤーが、ティアラが彼をいつもと違ったように魅せてくる。
顔は赤くなっていないだろうか。私の両腕は後ろに反らせている自分の半身を支えるため半固定状態でそれを確認することはできない。
ぐちゃぐちゃ。ごちゃごちゃ。
意図の掴めない質問に答えるべく私は脳内で答えを模索したが残念ながら今のこの状態を打破できるような言葉はついぞ見つかる事は無かった。
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