純情少女
夏休みが終わる頃、俺は実家に戻って暮らしてた。
「大丈夫なのかよ?」
「ん?うん。母さんと病院通ってんの。今はまだ不安定なんだけど、まぁとりあえず生きてりゃいいかなって。凌ちんも色々ありがとね」
「おう」
それでもやっぱり学校は最高で、これがないと始まらない。
便所行って教室に戻ろうとしてると、ドアから覗き込んでるのは隣のクラスの女の子。
「こんにちは、隣のクラスの久瀬心ちゃんでしょ?可愛いから覚えちゃってた。だーれ見てんの?」
「うわ、っ…あ、新屋都!」
「あ、何覚えてくれてたの?いやぁ照れちゃうなぁ」
心ちゃんが顔を真っ赤にして俺を見上げる。いつも髪の毛くりんくりんにして、メイクもネイルもバッチリな今時の女の子。ま、知ってたんだけどね。
「当ててあげよっか、凌ちん狙いでしょ?」
「は!?ち、違っ…違う!」
入学したばかりの頃から、この子がいつも凌ちんを見てたのを知ってたから。可愛いしいい子そうだし俺もチェックはしてたけど、凌ちん狙いなら手は出せないかなぁなんて。
「協力してあげよっか?つーかまず凌ちんの誕生日、今日じゃないけどね」
「えっ嘘っ…だ、だって今日だって聞いて…!」
「っあは、誰に聞いたの?まぁ渡しとけば喜ぶんじゃん?」
心ちゃんの手から小さな包みを受け取ると、慌ただしくぐいっと胸ぐら掴まれた。
「いい!渡さないでっ…ていうか返して!他の女の子と一緒じゃ、嫌だもん…知ってんの。アンタも、鏑木凌もチャラいって…色んな女の子と、遊んでるって」
「心ちゃんも遊んで貰えばいいじゃん。俺が紹介してあげよっか?」
「それじゃ嫌なの!それじゃ、意味ないし…」
わーお、ちょー乙女。そうは言っても凌ちんも凌ちんでモテっからなぁ。女の子なんて選り取りみどりだし、そういう本気になりそうな面倒な子をわざわざ選ぶなんて思えない。ていうか俺なら選ばないし。
「じゃ、取引しよっか。俺に可愛い巨乳の女の子紹介してくれたら協力してあげる。いいハナシじゃない?俺が凌ちんと仲良いのは知ってるでしょ」
「………巨乳?」
「そ、巨乳」
心ちゃんが瞳を揺らして悩んでしまう。
これはもう、勝ち確かな。
「まぁいいや、ライン交換しとこ。気になったら連絡してくれればいいから♥」
なんつーか、純情、純粋。
こういう子って今時珍しいよなぁ。少なくとも、俺の周りにはいないかも。多分、凌ちんの周りにも。
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