UA36

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消えた名前




「貴方!お帰りなさい。やだ帰って来るなら連絡を下さればいいのに…私ったらこんな格好で恥ずかしい。そうだ、お腹減っていませんか?今日はケーキを焼いたので良かったら」

「うん、有難う。でも友達も連れてきてるんだ、待たせると悪いからすぐ行くよ。また来るから、その時にでも」

休日、都に連れられて訪れたのはでっかい城みたいな家だった。母親らしき女の人がパタパタ都に駆け寄って、とりあえず俺も頭下げておく。
都はその人に優しく笑って背中を諭して中へと連れていった。

「あの、都さんのお友達の方ですか?」
「あ…はい、そっす」

また知らない女が玄関まで出て来て、俺に会釈した。

「ごめんなさいね、都さんから奥様の事は聞いているかしら?あ、私は家政婦の須藤っていいます。都さん、奥様に合わせて下さるんですけどやっぱりお辛いと思うんです。どうか、都さんを宜しくお願いしますね。あ、これフルーツケーキなんです。良かったら都さんとご一緒に召し上がって下さい」

都、金持ちのボンボンかよ?ケーキを手渡されてとりあえずそれを受け取っておく。すると荷物を纏めた都が戻ってきて、母親がそれを見送った。

「またお仕事に余裕が出来たら帰って来て下さいね。行ってらっしゃいませ」

「うん、じゃあ行くよ」

眺めていれば都は母親の髪にキスをする。外へ出ると盛大に溜め息をついて、都は顔を背けてちょっとベソをかいていた。

奥様がいて貴方がいるのなら、都はさて何処に?多分それはもうこの家には、存在しないんだろう。

「フルーツケーキだってよ、都お坊ちゃん」
「須藤ちゃんのでしょ?これちょー美味いよ。帰って食お。じゃー紅茶買って帰ろっか」
「てめぇはセレブかよ」

そうやって笑うのは、誰かの為に。自分隠しても、誰かの為にひたすら笑えんのは多分、優しいんだろう。
俺はそんなに優しくはねぇけれど、それでも守ってはやれるから。まぁ悪くはねぇだろう。一人じゃないんだし、多分乗り越えていけんだろう。

二人なら、何だって。


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