UA36

http://nanos.jp/ua36ss/

夜を越える




「中1ん時に父親が死んでさ、母親そっから頭おかしくなっちゃったんだよね。それ以来、たまにしか帰ってなくてさ。まぁ普通に生きてんだよ、平気なんだけど……俺のこと、貴方って呼ぶんだよね。ヤバイでしょ」

酒を飲みながら、都がぽつぽつ話した。

「実の母親にだよ?ちゅーとかされそうになるし、夜這いされたこともあんの。さすがにヤバイし拒否るじゃん?そしたら母親、自殺未遂しちゃってさぁ。何となく帰れなくなっちった」

都が泣きそうに笑うのは見ていらんなくて、俺もまたぐいっと缶ビールを飲み込む。全然、そんなのは聞いたこともなかった。帰れねぇから、女の家泊まり歩いてその日暮らしをしていた訳だ。

だから、夏休みを嫌ってた訳か。

「……此処にいりゃいいだろ」
「そういう訳にはいかないでしょ、まぁ何とかするよ。今日はごめん、ありがとね」

泣きたくなるくらいに、都は誰にも本音を見せやしない。それは別に多分、俺を信頼してないとか迷惑が掛かるとかそういうんでもない。

もう、癖になってんだろう。

「あ、いいよ俺ソファで」
「いいからベッド使え」
「凌ちんって、意外と優しいよネ…」

都が俺のベッドに入って、何やらすんすん枕の匂いを嗅いで思わずべしっと都の頭を殴った。

「やめろよお前腹立つな」
「凌ちんの匂いに包まれて今日は寝るよ、おやすみ」
「おうさっさと寝ろ」


深夜になると、都は魘されてた。
ソファに横たえたまんまでその苦しそうな声に、思わず身体を起こしてタバコに火を点ける。寝室に入って眺めてみると、不意に都が目を覚まして身体を起こした。

「……ビックリした、凌ちん…何してんの」

俺を見やった都の目から、ぽろぽろ涙が落ちていて思わず目を背ける。

「………ビックリした」
「悪い、スゲー魘されてたからよ」
「あー…ごめん。何か夢見ちゃった」


何の夢かは、聞かなかった。

多分、聞いたって何の腹の足しにもならねぇもんだろう。それは夜を濁すに足る、酷いもんなんだろう。 そういう夜を一つ一つ乗り越えて、やっと生き延びる。

でもそんなのは
一人じゃどうにも、しんどいだろう。


prev next
目次へ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -