コーヒーブレイク【藤椿】
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「…よし、まずはこんなもんかな」
「ああ…。少し休憩しよう。」

ソファを居間の窓側に移動させ、ふぅと同時に息をはいた。

3月下旬、僕らは新居の整理をしていた。
この春から、双子の兄と一緒に住むことになったのだ。
理由は、同じ大学に通うことになったので別々に部屋を借りるよりも一緒に借りた方が色々と利点があるから。
それと、まあ、プライベートな理由もあったり無かったりするのだが…。

「お茶いれるかー。もうガスって通ってんだよな?」
「ああ。僕も手伝おう。」
「いいよ、座ってろって。」
「え、それじゃあ何か悪いし…」
「いーって。疲れてるだろ、整理だってお前がほとんどやってくれたし。」
「む、むぅ…」
「おにーちゃんに任せなさい」

笑顔で言われてはもう何も言えない。
申し訳ないなと思いつつも、確かに疲れていたので言葉に甘えることにした。
ぼすっとソファに深く座り、半ば寝転がる体制になった。
ずるずると頭が滑っていき、終いには肘掛けに頭をのせて寝転がってしまった。
ふぅーと大きく息をはきながら、目を押さえた。
キッチンからチチチチチと、点火する音が聞こえ、すぐにしゅぼっと火がつく音がした。
ことことかちゃかちゃ、藤崎がお茶の用意をする音が聞こえる。
そんな生活音と、まどろみに包まれて僕はゆっくりと目をつむってしまった。

目を閉じながら、藤崎の作業音を聞く。
かちゃかちゃ、ことこと、そんな些細な音が心地良い。

ぴーっとやかんの音が聞こえた。
お湯が沸いたようだ。
カチッと火を止め、ごぽぽとポットに移す音。

「お前砂糖入れるんだっけ?」
「ああ、少し。それとミルクを」

りょうかーい、とキッチンから聞こえた。
パチリと目を開け、ソファに座り直した。
目の前にあるミニテーブルの上のダンボールをどかし、フキンで拭いた。
拭き終わると同時に藤崎がティーセットを運んできた。

「はい」
「ありがとう」

礼を言ってカップを受け取る。
まだ熱そうなので、そのままテーブルに置いた。
藤崎は一口紅茶をすすった。

「…飲まねぇの?」

怪訝そうに聞いてきた。

「いや、熱いから…」

そのままテーブルに起きっぱなしは失礼だったか、そう思いカップをもってふぅふぅと冷ました。

「くっ…」
「…何かおかしいか?」
「いや、ごめん。そういやお前猫舌だったっけ?」
「…ああ。」

笑われたことに少し腹が立ったが、眉間にしわをよせただけでこらえた。
冷めたかな、と一口紅茶を口に含む。

「大丈夫?うまい?」
「ああ、うまい」
「お前の、ロイヤルミルクティーにしてみたんだ」
「ロイヤルミルクティー?」
「ああ、ほらお前いっつも喫茶店とかファミレスとかいくとメニューのロイヤルミルクティー睨んでるだろ?」
「…そうか?」
「飲みたかったんじゃねえの?」
「まあ、気になってはいた。ロイヤルというのだから、きっと高貴な味がするんだろうな、と」
「で、実際は?」
「…普通のミルクティーと違い、まろやかだ。茶の味の深みがミルクと混ざり合い紅茶の本来の味が出ている気がする。」
「あっためた牛乳で淹れてるからな」
「なんと!」

そうだったのか。
長年の疑問が解決された。
てっきり生クリームかなにか、脂肪分の多いものをいれて味をこってりさせているのかと思った。
もう一口含む。
紅茶独特の甘苦い味と、牛乳の優しい味が口に広がった。

「次は僕が茶を淹れる」
「ああ、楽しみにしてるぜ。じゃあもう一仕事するか」

空になったカップを置き、2人は立ち上がった。


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