同居【藤椿】
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「なあー椿いー」

その誘いは突然だった。

「同居しねえ?」



高校も卒業間近。
大学受験も済ませ、生徒会長の引き継ぎも終え、僕残り少ない高校生活を堪能して過ごしていた。
思えば、今まで波乱の毎日で、もしかしたら今が一番穏やかかもしれない。
僕は推薦入試で、年内に大学が決まっていたため、年越しからゆっくりしたものだった。
穏やかな理由として、皆、試験だなんだと忙しくして、事件を起こせないのもあるんだと思う。
冬のピリリとした空気を深く吸い込み(冷たい空気が気持ちいい)、ふああと窓の外に一つあくびを落とした。
ふと白いものが目の前を横切る。
目を凝らしてよく見てみれば、それは雪だった。
一つ、また一つと空から舞い降りてくる。

「雪か」

今年は初雪が遅かったな、と考えていたら後ろから声をかけられた。
振り返ると双子の兄、藤崎がにっこりと手を振って立っていた。

「藤崎」
「よお椿ぃ。どーりでさみーよなあー。雪だぜ、雪。」

はあーとわざとらしく白い息を吐き出す。
手は両手ともパーカーのポケットのなかにつっこまれていた。

「キミ、今日は試験だったのではないのか」
「んー?午前中で終わり。今日数学だった。」
「そうか。出来栄えはどうだ」
「あー…まあまあってとこじゃない?あと二科、よっぽど悪くなけりゃおちないよ」
「………そうか」
「ん…。」

しばしの沈黙が僕らを包んだ。
窓の外では、雪が激しくなっていた。

「俺さー、がんばるよ」
「………何をだ」
「お前と同じとこいけるよう」
「がんばるもなにも、よっぽどのことがないかぎり受かるのだろう?」
「んー…それがさ、ほら、英語って、英語で小論文かかなきゃいけねーじゃん?あれがさ、俺苦手で」
「ではこんなところで油を売っている場合ではなかろう。帰って勉強したまえ」
「まーまー、うん。でもそこ、なんとしても受かんなきゃなんだよね」
「………どうして」
「俺滑り止め受けてないんだわ」
「なっ…!………は!?」
「うん。どうしても受かんなきゃだよなー。お前も居るし。」

しみじみと冬の空気と雪に溶かすよう呟いた藤崎の言葉に、また僕は言葉をなくした。
冷たくなった手を暖めようと両手をいじくった。

「なあ?」

沈黙を破ったのはまたしても藤崎だった。

「大学受かって、卒業したらさ、同居しねえ?」
「…同居?」
「うん。どうせ同じ学校だし、家から通うより下宿したほうがいいし。ほら、二人で家賃とか払えばそっちの方が安くなるだろ?」
「ああ…まあ、今後を考えればそっちの方が何かとメリットがあるな」
「だろぉー!?じゃ、きまりな。」
「ああ。だがお前が落ちたらこの話は無くなるんだからな。」
「………」
「どうした?」
「やっぱおちても一緒に住んでいい?」
「はあ!?ばかか貴様。同じ学校にいくからメリットがあるのだろう?」
「えーいいじゃん俺いつも三食と掃除洗濯何でもやるからあ!」
「だ、黙れ!なんだその家政婦さんみたいな…。」
「うん俺家政婦になるわ」
「愚か者!絶対君が受からなかったら同居はしないからな。」
「え!やだやだ椿ちゃんそんな悲しいこと言わないでよ!!」
「じゃあせいぜい頑張るといい」

僕は応援の意も込めて、藤崎に微笑んだ。

藤崎も笑い返したから、きっと、大丈夫。


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