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雷門中サッカー部二年、みょうじなまえ。
今日だけ帝国のマネージャーやります。



事の始まりは一本の電話だった。
いつものように練習を終えて帰って来て、がっつり夕御飯とマッタリくつろぎタイムを過ごしているとベッドの上に放りっぱにしていた携帯が鳴った。
メールではなく電話に設定していたメロディが鳴ったので驚き、慌てて手に取って通話ボタンを押せば聞こえてきたのは鬼道さんの声で。
電話なんて珍しいなぁなんて思いつつ話していると、あたしに頼みたい事が有るのだと彼は言った。
その内容というのが「一日だけウチのマネージャーをやってくれないだろうか」というモノだった。
理由は「レギュラー以外の部員にもしっかりと練習させてやりたいのだが、ウチにはマネージャーが居ないし女子の知り合いも居なくて困っている」から、だそうだ。
なのでわざわざ他校のあたしを頼ったらしい。
ただ気になったのは「女子の知り合いが居ない」という事…確か帝国も共学だったからクラスに女子は居るだろうし、それなりに人気も有るらしいからファンの子にでも頼めば人手は集まりそうなのに。
影山が率いて築き上げた歴史や試合のやり方から、もしかしたらサッカー部は憧れよりも恐怖の対象だったのだろうか。
そういう事ならば女子は滅多に近付かないだろうし、向こうは自分達を知っていても交流が無ければ知り合いにもなれまい。
…それならあたしは、恐怖心なんかより好奇心を優先させた物好きみたいなモノなのかもしれないな。
だがおかげで友達になれたんだし、こうして頼ってくれたのは嬉しい事で困っているなら手助けしたいと快く了承した。
それで鬼道さんが少しでも喜んでくれるなら何だってやってやるさ!

そんな訳で、当日。

「戻るのが遅いぞ!もっと早く走れ!」
「パスは正確に、シュートはしっかり狙いを定めろ!」

帝国サッカー部専用の練習場に指示が飛び交う。
相変わらずの広さや部員の多さに少々驚きつつも、皆頑張ってるなぁと感心しながらドリンクを作る。
人数は帝国の方が多いけれど、作業は雷門でやっている事と特に変わらないのでマイペースに取り掛かる。
あたしへの態度も別に悪くはなかったし(まぁ鬼道さんが頼んだ奴って事だからだろうけど)自分達のサッカーをすると決意した彼等は普段の所作も素のままのように思える。
気を張らずに過ごせるというのは良い事だ。

「よし、ドリンクはこんなもんか。あとはタオル準備して…」
「運ぶの手伝いましょうか?」

掛けられた声に顔を上げると、にこにこと笑顔で此方を見ている子が居た。
紫の髪とヘッドフォンがトレードマークの…えーと確か、

「成神、だっけ?」
「正解。もう俺等の名前覚えたんスね。」
「まぁ一日といえどマネージャーですから。」

タオル運びは一人でも問題は無いのだが、このだだっ広い帝国校内では迷って戻れなくなる恐れも有るので案内を兼ねて申し出を受ける事にした。
タオルを持って廊下を歩きながらサッカー部の事やお互いの事などを話したりした。
ついでに今度いつも聴いているアーティストのCDを貸してもらう約束もした。

「なまえサンがずっとウチに居てくれれば助かるのに。いっそ雷門辞めてこっち来ません?」
「気持ちは嬉しいけどそりゃ無理だ。それに帝国の勉強ついてけそうにないし。」
「あ、それもそうか。」
「おいコラ。」

冗談ですよ〜と笑う成神の頭を小突きつつ、何だかマックスを彷彿とさせるような子だなぁと思った。
こう、人を小馬鹿にしたような態度とかさ。
嫌いじゃないけど。
練習場に戻ってタオルを置いて時計を見ると、そろそろ休憩に入る頃だったので鬼道さんの所に行って指示を仰ぐ。
鬼道さんが皆に休憩の旨を伝えると次々に此方へやって来たのでドリンクとタオルを手渡した。

「ん、美味いなコレ。」
「ウチのマネ直伝の隠し味が入れてあるからね〜当然っしょ。」

どうやら上手く作れたらしく、帝国メンバーは皆ドリンクを気に入ってくれたようだった。
普段は練習ばっかといってもマネジ業もやってるからね、秋の教えが役立って良かった。

「みょうじ、お前確か料理は苦手とか言ってなかったか?」
「コレ料理じゃないから変なモノ入れたりしない!まぁ醤油味なのに何故か唐辛子の味がしたりとかはよく有るけど…」
「うげ、何だよそれ不味そう。」
「不味いし見た目最悪になるだろーけど食いたかったら作って来てあげるよ。」
「い、いや遠慮しとく…まだ死にたくない。」

笑いがメンバー内に溢れる。
強豪・帝国学園といってもやっぱり同じ中学生、あたし達と変わった所なんて何も無いよ。
謎が多いと言われてる五条さんや身体の大きい大野さんも手伝ってくれたし、洞面も成神と同じようにあたしを慕ってくれてるのか結構話し掛けてくれた。
喧嘩してんだかじゃれてんだか分からん咲山と辺見を宥める万丈さん達を寺門さんと苦笑しながら眺めたり、どちらが先に源田さんからゴールを奪うか佐久間と競い合ったり。
いくらあたしでも、馴染めるだろうかという不安が無かった訳じゃない。
けどそんな心配は要らなかったみたいで皆受け入れてくれた。
ホームは雷門だし仕事を頼まれたのは一日だけだったけど、もっとこのメンバーと一緒に過ごしたいと思う自分が居た。
それぐらい、帝国の一員として過ごせた時間が楽しかったんだ。



練習と片付けを終えて校内から出る。
少し薄暗い電灯が並ぶ廊下から出て拝んだ夕陽はとても輝いてるように眩しく見えた。

「ねぇなまえサン、時間有るならこれから何か食べに行きません?」
「良いねぇ!この辺りって全然来ないからどんなお店有るのか見てみたいし。」

成神の誘いに乗れば、じゃあ自分も行こうかなと賛同する人がちらほら。
じゃあ家に連絡しなきゃだと携帯を取り出せば、突然伸びてきた腕に自分の手を掴まれる。
掴んだ人は鬼道さんだった。

「悪いが今日は此処までだ。お前達もあまり遅くなるなよ。」

そう言うと掴まれたままの手を引かれ、倒れないように足も自然と其方へ動いてしまう。

「あれ?ちょっと、鬼道さーん?」

呼んでも前方を向いたまま応えずに歩いて行く鬼道さんの行動が理解出来無かったけど、多分何を言っても離してくれないだろうと思ったのでついて行くしかないようだ。
あたしと同じくキョトンとしていたメンバーに手を振って別れを告げる。

「そんじゃね皆ー、今度会った時はどっか食べに行こうなー!」

少し残念そうにしてたけど、次は絶対に行こうと言って手を振り返してくれた。
そんな皆から視線を外し、未だに手を掴んだまま前を歩く鬼道さんの方に向き直す。

「おーい、歩くの速いよ鬼道さん。」
「………」
「何処連れてくのさ。何も言わなかったら分かんないってばー。」

そう言えばようやく鬼道さんは立ち止まってあたしの方を見たのであたしも足を止める。
夕陽の光がレンズに反射してどんな表情をしているのかはよく分からない。

「…随分、仲良くなったんだなアイツ等と。」
「あ、うん。皆面白い人達だったよ。帝国も良いチームだよね。」
「…そうか。」

それから少しの沈黙が有って、掴まれていた手が彼から離された。

「すまない、いきなり連れ出したりして。驚いただろう。」
「まぁ、ちょっとは。」
「…自分から頼んだクセに、こんな風に思うなんておかしな話だ。」

再度前を向いて俯き気味で呟いた彼の言葉に、何の事だろうと首を傾げる。
あたし何かしたっけか…?

「他に思い当たる人が居なくてお前に頼んだのに、アイツ等と楽しそうに話しているのを見ていると変な気分になってな。気が付いたら、手を引いていた。」
「…それって…」
「多分、嫉妬していたんだろう。」

嫉妬って、ヤキモチの事だよな…?
まさかぁと冗談交じりに言えば鬼道さんが苦笑していたので、どうやら本人が言った通りらしい。
…珍しいというかそんな事も有るんだなと、驚きと照れを感じて頬が少し熱くなったのを感じた。
そして、嬉しさも。

「あたし、そんな鬼道さんに想われてたんだ。」
「そうらしいな。」

何だよそれ、と鬼道さんの背を軽く叩いてみたりして再び歩き出す。
今度は二人で並んで。

「鬼道さんが言ってくれなかったら接する機会なんて無かっただろうし、感謝してるよ。」
「こっちこそ。みょうじのおかげで練習に専念出来た。」
「役に立てた?」
「あぁ。」

なら良かったと笑って言えば鬼道さんも笑ってくれて。
また仲間が増えたし鬼道さんがヤキモチだなんて貴重な体験も見れたし、とても楽しい一日だったとしみじみ思った。
次はもっと色んな事を話したいし、色んな所にも行ってみたいと思った。
…勿論、優先するのは、君で。



今の立場だから叶う事
(もし帝国の生徒だったらこんな事も無かったのかもしれないと、雷門に通えてる自分を大切に思おう)



杏様へ。
リクエスト有難う御座いました!




ありがとうございます!!
雷門もすきですけど、帝国も好きです!

5000hitおめでとうございます!


        杏



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