5:顔-後編- 「なあ、この女エルリック兄弟をおびき寄せる為に使うんだろ?じゃあ生きてりゃそれで問題ねぇんだよな…」 にやにやと笑いながら一人の男が言う。 「よせよガキ相手に」 「いいじゃねぇか。少しくらいよぉ」 ぬっと男の手が伸びる。 ガキの顎に触れようとした直前、ばしっとその頬がはたかれた。 「触らないで…っ」 「っ!こいつ何しやがるッ!!てめえらちゃんと手縛っとけよ!」 「女一人に其処までする必要ねぇだろ〜?」 「へへ、しかし気の強ぇ女だな…」 そんな事を言いながら薄気味悪い笑いを浮かべる。 気づけばどいつもこいつも同じような顔をしていた。 歪み切ったそれに、あいつが気づかない訳も無く。 「ッ!いやぁッ!!」 叫んだとほぼ同時に、逃げようとした腕に男の手が絡みつく。 その身体が地面に沈む。 「………」 あまりに想像通りの展開に、俺はふぁ、と猫らしく欠伸をした。 まったく人間てのはがっついてて嫌になるね。 こんな状態になる前に錬金術を使うべきだったのに。 悪人でも人間相手にそんな事出来ないとか言うんだろ。 ほんと頭の痛くなるような馬鹿。 今となっては練成陣を描くどころかまともに喋る余裕も無さそうだ。 「いやッ!!い…やだぁ!!」 衣服に、骨ばったごつい手が掛かる。 無意識に目を細めた。 あいつの身体は醜い男達の背に埋もれ、完全に見えなくなる。 なにこれ。…何この感覚。 「ちゃんと抑えてろって」 「面倒臭ぇな、脚撃っちまえよ」 胸糞悪い。 「エンヴィー…ッ!!」 「!」 聴こえた声に、 耳を疑った。 だって、 おチビさんがすぐ近くにいるのに。 なんで。 気づいたら其処から飛び降りていた。 いつもの姿に戻り、近くに居た奴を殺していた。 その後はもうぐちゃぐちゃ。 薄汚い返り血を厭うのも忘れて手当たり次第貫いた。 驚愕に見開かれる目、目。 もう遅い。足掻き苦しんで死ね。 いつの間にか真っ赤になっていた自分の手に、楽に殺すんじゃなかった、なんて思う。 俺は何してる。 「ひっ、ひぃぃいぃ!!」 一匹、取り逃した奴が叫びながら大通りに這い出て行くのが見えた。 あー、あっちには…。 まあいいや、もうどうでもいい。 そんな事より。 狭い道に人間が連なってガキの姿が見えない。 奥に連れて行かれたか。 この状況で人質を連れて逃げるなんて意外だ。 早く追いつかないと面倒…。 「…ッ!」 思考が遮断される。 何処からか飛んできた数発の銃弾。 まだ分かってない奴が居るらしい。 体内に留まった弾を肉ごと引き千切って捨てると、目の前で蒼白した人間が震えながら銃を構えていた。 「な…、なんなんだよお前…ッ!一体…っ!」 「さぁ?なんだろねぇ」 「うぁぁぁあ!!」 ナイフ片手に突っ込んでくる奴、性懲りもなく銃を連射する奴。 殺しても殺しても出てくる。 虫けらが寄り集まると不愉快でしょうがない。 なんで俺がこんな。 大体喧嘩なんて嫌いだし。 どっかの正義感丸出しのチビじゃあるまいし、柄でもないのに。 あいつが、 俺の名前なんか呼ぶから。 [page select] [目次] site top▲ ×
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