5:顔-後編- 帰るに帰れず、 その顔を見下ろし続けていた。 人込みの中、目線の先の三人はなかなか前に進めず立ち往生に近い状態だった。 この辺はいつも混雑していて、特に今の時間帯は酷い。 これだけ人間がいると標的を観察しづらい。 それでも上から眺めていると色んな事が分かる。 「へぇ…」 ふと、それに気づいて薄く笑った。 自分の他にも、 あいつらの跡をつけている奴らがいる。 一般人を装った男が数人、一定の距離を保っておチビさん達を尾行している。 その仲間だろうか、男達を更に尾行している人間もいた。 そのままの状態で時が過ぎたが、ある時人の波に攫われて兄弟とあいつがはぐれて。 男達がどうするか見ていると、ぴったりと一方に張りついていく。 狙いはあいつか。 迷子になってきょろきょろしている。 仕掛けるなら今だ。 そう思っていると、尾行者の一人が足早にあいつに近寄っていく。 その距離が狭まる。 そして接触した。 両者の動きが止まる。 此処からは確認出来ないが、おそらくあいつは後ろから銃か何か突きつけられている。 人込みの中とはいえ大胆極まりない。 おチビさん達は遠くの方で人込みを掻き分けるのに必死だ。 後ろで見張っていた人間も追いついてきて合流する。 ガキを連れ、横道を逸れて裏通りに入っていく。 あの人間達の思惑に興味はないが、あいつがどうするかは見物だ。 俺は裏通りに移動し、近くで見物する為わざわざ姿を変えた。 身軽な黒猫に変身し、塀伝いに奴らについて行く。 薄暗い道のその先に数人の男が手下の帰りを待っていた。 あいつが其処へ突き出される。 傍に詰まれた木箱の上にすとんと飛び降りて様子を窺う。 ガキの顔も、取り巻く十数人の輩もよく見える。 「悪いな姉ちゃん」 一人が口を開いた。 「…私に何の用」 「正確には鋼の錬金術師に、だ。あのガキには随分世話になってなぁ…」 お礼がしたいんだよ、とリーダー格の男が口元を吊り上げた。 おチビさんはほんとに敵が多いな。 「……」 退路は絶たれている。 数も多いし、あいつは丸腰。 隙を見て錬金術を使うしかないだろう。使えればの話だけど。 [page select] [目次] site top▲ ×
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