5:顔-後編-

最初見た時思ったのは、


『なんだその顔。』








そんなもの、
見た事も想像した事もなかった。





鳥の笑う顔なんか。
















ドン、と背中を打ちつけ、その店の向かいにある外壁に寄り掛かった。


俺は混乱していた。
口元を手で覆い、まじまじとそれを見つめる。




あいつと兄弟がセントラルの中心にある商店街にいる事は知っていた。

いつものようにビルの屋上伝いに通りを見下ろしていると、
丁度その時、店からあいつらが出て来て。


様子を見たらすぐ帰るつもりだった。





それなのに。





兄弟の後ろから走って出てきたあいつに、思考を奪われた。









笑ってたんだ。
それもこれ以上にないくらい。



「………。」

何あの顔。


天地がひっくり返るような感覚だった。
あり得ないものが当たり前に其処にあって。




暫くその場を動けなかった。







エルリック兄弟はあいつと再会してからずっとセントラルに滞在していた。
おかげで大した動きも無く、見張りの手間も省けている。

だがなんとも目障りだ。

元々知り合いなんだし錬金術師同士馬が合うのは当然だが、最近は命令しなくとも毎日会っている。






一行は俺の視線になど気づきもせず、次の目的地に向かっていた。
まったく警戒していない。
声までは聞き取れないが表情を見れば十分だ。


「……」

妙な心地がする。
あいつがおチビさんと話しているのを見てからずっと。




街のざわめきに溶け、ごく普通にあいつが人間達の中に、おチビさんの隣にいて。





そしてあんな顔をしている。






そうやってお前は。
俺の目の届かない場所で、誰かの手の中でだけ脆いんだ。

母親に化けたあの時も、兄弟と再会した今も。
人間に近づくと、お前は嬉しげにその顔を崩す。





「…訳分かんない」





俺の知らないお前が憎い。

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