4:顔-前編-


未登録に連れられ、二人で賑やかなセントラルの街を歩いた。

見晴らしのいい石橋、本屋、秋の収穫を祝うようにずらりと並んだ食べ物の露店。
それから未登録の好きそうな洒落た店の数々。

「エド、次は何処行く?」

「そうだなぁ」

一応楽しんでる…のかな。
表情からは分からなかったけど、未登録の足取りは軽かった。
一段落つくと、持ってきた弁当を食べようってことになって、近くの公園に立ち寄った。



平日の昼間だから人は多くはない。
公園がやたら広いからますます疎らに見える。
一番多いのは母親と小さな子供の組み合わせだ。俺達くらいの奴は他にいなくて結構目立つ。
って言っても誰も見てないけど。


俺達は芝生の上に座って弁当を広げた。
そんなに天気はよくないが、秋を迎えた木々が華やいで綺麗だ。


「おいしい」

朝に焼き上がったばかりのスコーンを片手に未登録が言う。

「だろ?今泊まってるとこ、部屋はあんま綺麗じゃねぇけど料理の味は保証するぜ」

「うん、このパンもそうだけど…誰かと食べるとほんとにおいしい。エド達と食事してそう思った」

「いつも一人なのか?」

俺の質問に未登録は頷く。
ずっと一人きりで居るのか?
でも…。


「そっか。あー…じゃあさ、今度から夜も一緒に食うか?」


「…エドは」

「ん?」


「エドは、何も訊かないんだね」

「え…」

思わず声を漏らした。

ふっと寂しげに細まり、遠くを眺める瞳。
その先には笑い合う親子の姿。


ずっと感じてたことだ。
未登録なのに、未登録じゃないと。
勿論何も変わらない訳はない。
俺とアルだってこの数年で随分変わった。
未登録に言ってないことも沢山ある。

俺はぐっと拳を握り締めた。

「そりゃ、訊きたくない訳じゃ…。なぁ未登録、もしも、もしもなんか困ってるなら話してくれ。じゃねぇと俺達…」

「……。私は大丈夫」


大丈夫。

そのたった一言が、重い。


だって、あからさまな嘘だ。


「未登録…、」

「エドとアルには、自分達の願いを叶えて欲しいの」

「?待てよ、それは関係ないだろ?俺達はただお前のこと――」

「関係あるわ!」

未登録は声を荒げた。

その声は、少し震えていた。


「ごめん…私…」

「………」

今の状態におかしくなりそうだった。
未登録自身、感情的になって驚いているのかもしれない。

俺達に話せること、話したいことがあるならとっくにそうしてる筈。
隠してる。隠さなくちゃならない事情があるんだろ?
それは分かるんだ。


でも、お前は…。
お前はその顔を隠し切れてないじゃないか。



「なんで、大丈夫なんて言うんだよ」

俺はぽつりと疑問を口にした。
未登録が真っすぐ見つめ返してくる。



一体いつからそんな瞳―――。


「私…」

「大丈夫ならなんで…っなんでそんな顔してんだよ!?」

思わず未登録の肩を掴んだ。
見開かれた瞳が不安定に揺れる。


「エド…」

「こんなの違うだろ!?お前はもっと…ッ!」


苦しいんだろ?
どうして助けを求めないんだ。



助けを、求めて欲しいのに。



俺達じゃ駄目なのか。



「エド…痛い…っ」


その言葉にはっとした。



何やってんだ俺。



周りは、俺達の様子に気づくこともなく賑やかだった。
遠くの方ではいつまでも、底抜けに明るい子供の笑い声が聞こえていた。











「あ、兄さん!早かったね、どうだった?」


宿屋に着いてすぐ、奥からそんな声が聞こえてきて。


今は答える気にもなれず、無言のまま階段を上っていった。
背中にアルの視線を感じながら、目を合わさなかった。


きっと俺は今酷い顔をしてる。
こんな顔、アルに見せられるか。


俺はそのまま客室のドアを閉めた。

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