4:顔-前編-

あくる日、俺はいつものように宿屋のベッドで目覚めた。

一足先に部屋を出たらしい弟を探しに一階へ下りると、レストランの中から「兄さん」と声が掛かる。
そちらを見るとカウンターの近くにアルが立っていて、何故か白い包みを手渡された。
ふわりと香ばしい匂いが鼻を掠める。


まだ温かい。


「…なんだよこれ」

「さっき、頼んで包んでもらったんだ」

「?」

「二人のお弁当。忘れないで持っていってね」

「…持ってけって…」

二人って俺と未登録…だよな。それはともかく。
弁当って、何処で食べるんだ。


「図書館は僕一人で行くから、兄さんは未登録と何処か行ってきなよ」

こっちの疑問を摘み取るような言葉。
でもますます訳が分からない。
なんだそれ、と急な提案にただ首を傾げる俺に、気分転換だよ、とアルは言う。


「…未登録のこと、気になるんでしょ?」

それとこれとなんの関係が。
俺はいまいち話が読めなくて弟を見上げるしかなかった。
その時、アルが一枚の写真を取り出して。


「病院で撮った写真、この前ウィンリィが送ってきてくれたんだけど…」

記念撮影だとか言って、俺とアル、未登録とウィンリィの四人で撮った奴だ。


アルが言いたいことは想像がついた。


「…一番気になることは一緒か。って、気づかねぇ訳ねぇよな…」

横並び一列、満円の笑みを浮かべたウィンリィと腕を組んだあいつ。
未登録はただカメラのレンズを暗い顔で見つめていた。




「どうしちまったんだろうな…、あいつ」

何もこの時だけじゃない。
未登録は笑わないんだ。
冗談を言い合ってる時なんかに、俺達にはそれが酷く不自然に映った。
しかも、本人は自覚していないらしかった。


あんなのは未登録じゃない。
少なくとも、俺達の知る未登録じゃなかった。



「ほら、また考え込んでる!兄さんも未登録も休憩が必要なんだよ。分かったら早く朝ご飯食べて待ち合わせ場所行きなよ」

「ちょ、ちょっと待て、だったらアルも一緒に行けばいいだろ?」

つい考え込んでしまう癖を指摘されて焦りながら、
それでも尤もな意見を言ったつもりだったが。


結局俺は取りつくしまもない弟に宿屋を追い出されてしまった。
仕方なく、持たされた弁当を片手に大通りに向かって歩きだして。







秋めいた空が広がる朝の街。


いつもの待ち合わせ場所にはもう、未登録の姿があった。



「おはようエド。…アルは?」

「あ〜…それなんだけど…その、アルがさ」

「?うん」

なんて言えばいいんだ。
不思議そうに見つめてくる未登録の視線が痛い。
こういうのは苦手だ。

「アルが…気晴らしにどっか行ってこいって」

「えっ?それならアルも一緒に…」

やっとのことで紡いだその言葉に、未登録はさっきの俺と同じように首を傾げた。


「俺もそう言ったんだけど…」



『応援してるから。頑張ってね兄さん』

だとさ。


何を頑張るんだよ。
てか、俺一応兄貴なんだけど。


暫く黙り込んでいると、不意に未登録が俺の右手を取って。驚きながらそれを見つめる。
感覚なんてないのに、触れられた場所が柔らかな熱を持つ。


「未登録?」

「うーん…よく分からないけど…、きっと何か気を利かせてくれたんだよね。だったら、アルに感謝して今日は楽しまないとね!」

そう言うなり、未登録は勢い良く俺の手を引いて歩き出した。






ほら、こんな時とか。







笑うだろ、お前なら。



焼きついて離れないくらい。








一体何が、誰が。






お前にそんな顔させてんだ。

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