3:こころ




避けようと抗っていたものに触れると、どうしようもなく温かくて。


だけど、どうしてだろう。


さっきから冷たい彼の顔ばかり浮かんで、少し痛い。






「ごめん…もう行かなきゃ」

未登録は少年の肩を押し返した。

もしもこんなところを見られたらと我に返る。
この時間帯には不定期に彼が、エンヴィーが様子を見に来るのだ。


「待てよ、お前今まで何処で何してたんだ?ずっとセントラルにいたのか?」

こうして会えた。
だけどエドの疑問は尽きない。
事件のこともこの数年のことも、未登録からはまだ何も聞いていない。




どうして今、此処に居るのかも。



「…、それは…」

未登録は口を噤んだ。
二人に話せることが何ひとつなくて。


「言えないのか?」

「もしかして未登録…誰かに口止めされてるの?」

「そうなのか?未登録」

エドとアルの問いに未登録の表情は曇るばかりだ。
話せば確実に二人を巻き込むことなるだろう。


「ごめん…、とにかく今は早く此処を離れなきゃいけないの…」

二人の為にもそうするべきだろう。
苦しそうに絞り出す未登録から切実さが伝わってくるのか、
兄弟は困った様に顔を見合わせ、そして少女を見つめ返した。


「また…会えるか?」

「…、……この街にいれば、きっと」

二人を見張っている限りは。


「最後に一つだけ聞かせてくれ。お前…その…、親父さん達のことは、知ってるのか」

未登録は一瞬驚いたような顔をして、ゆっくりと目を細めた。


「…知ってるわ」


「そうか…」

それを聞いて、エドは自分を納得させるかのような、もどかしげな笑みを浮かべた。


「……またな、未登録」

二人の身体がそっと離れる。

未登録は頷くことはせず、一度だけ二人の顔を見つめると、
すぐにその場を立ち去った。










心臓の高まりが酷い。



二人の視線を背に浴びて、震える唇を結んで走った。




どうしてだろう。
また彼の顔が浮かぶ。




彼に見つかるのが怖いから?



違う。

そうじゃなくて。






未登録は足を止めた。
乱れた息をそのままに。



「……はぁ…、…」


悪い事なんてしていない。

彼こそ、彼こそ笑いながら人を殺して、
人を暇潰しの道具みたいに扱って…。


なのに、罪悪感に似た惑いがあるのは何故。



彼を裏切ってしまったと、どうしてそんなことを思ってしまうのか。
未登録がどんなに考えても答えは出なかった。

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