2:hide-and-seek






立ち込める煙に巻かれながら時を止めた三人の様子を、
遠くから眺める者があった。





それは以前、街の片隅で林檎を売っていたあの老人だった。




皺だらけの瞼の合間から覗く瞳が、静かに人形劇を見下ろす。

その眼光は、小さな露店を営みながら余生を過ごす老人には似つかわしくない、
冷たく滾るような黒々とした熱を孕んでいた。







老人はやがて曲がった背を揺らしながら路地を辿り、明るい大通りへと出ていく。


そして人の流れに乗って歩み出したその時、
向かいから歩いてきた女性が老人の肩にぶつかった。



「あら、すみません」




「いや何、わしがぼうっとしておったんだ」


そう笑って人混みに混っていく人物に、女性は訝しげな顔をする。


それに気づいた友人が尋ねた。


「どうかしたの?」





「ううん。あのおじいさん、耳が遠いんだと思ってたから」



案外しっかりしてるのね。と、漏らすその声が、





そして、老人の姿が。




夕闇に紛れ、
赤い空の下で小さく失われていった。











交錯する空を仰げば、
自分の姿など瞬く間に朧。


もしも全てが見える者があるならば、
それは当事者になり切れないあの太陽かもしれない。



あれがまた昇る頃、

地上には無数の影が伸びるのだろう。





そう、いつだって。


過剰に鮮烈な光と共に落ちる闇の中。



影達は刻々と変貌する己の姿に気づきながら、





いつだって、
うまく抗えもしないで。

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