2:hide-and-seek

「うん…なんだか不思議な感じがするよ。
今まで誰も疑いを持たず、未登録を見つけようとしなかったんだなって…」

感慨深そうに漏らしたアルフォンスの言葉に、エドは遠く広がる暖色の空を一望した。



流されゆく雲がうっすらと掛かるだけの、清浄たる薄紅色の半球。


見れば一羽の鳥が忙しく羽をばたつかせ、まもなく視界の隅へ飛び去ろうとしていた。


柔らかな色紙を淡く敷き詰めたようなこの空において、
遠いその存在は黒い影に等しかった。

それを眺める少年の足元にも、細長い影法師が揺れる。



「焦ることねぇか…まだ始まったばっかだし」

「うん」


「あいつを捜すのは、俺達が最初で最後にしようぜ」


エドは笑った。
アルフォンスも頷く。




探すことに意味がある。
今はそんな気がして。


だけどいつか、




いつの日か。





「あの、兄さん」

「?なんだ?」

「未登録の話じゃないんだけど、実は僕ちょっと気になることがあって」


「気になること?」

エドは首を傾げながら隣を見上げる。


「うん、気のせいだと思ってたんだけど…」











「それで、鋼の坊やは何をしてるの」


落ち着き払って問うた女は、腕を組んだまま青年と向かい合った。


「あの様子だと此処にしかない物を探してる…ってとこかな」

「つまりお嬢ちゃんじゃ何も分からないのね。貴方が調べれば済むことじゃない」

「まあそうなんだけどさ。あんまり気乗りしないんだよね」

私情を挟んだ科白を吐けば、すぐさまラストに窘められ、
言われなくとも兄弟の所に行くつもりだとエンヴィーは撤回した。



確かにあのエドワードという少年は放っておくと後々面倒なことになるだろう。

無論、組織としては思わしくない。


だが一方でその展開を望んでいる自分がいるのをエンヴィーは自覚していた。



大事な人柱でも、
計画の邪魔になれば始末するまで。

いつだってそうしてきた。




もしもあの人間の命を絶ったら。


あいつは、





あいつは、
どんな顔をするだろうか。






嫌悪する?
憎悪を抱く?


それとも、
見て見ぬ振りをする?





少なくともあの涼しげな仮面に罅くらいは入るだろう。


そう考えただけでエンヴィーはなんとも言えない高揚感を覚えるのだった。

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