1:凄涼

彼方に暮れゆく日。



予定通りの太陽が、


今日を流してしまう。





日暮れ頃、街の一角で未登録は桃色に照らされていた。
もうじき兄弟の監視が終わる。

楽しく寂しい時間が。


遠くありながらもエドとアルは未登録には眩しい存在だ。



「……」

風に夜の気配が混じり始め、
鳥も人も、自分の居場所へ帰ってゆく。

夕焼けに染まるセントラルはいつも、誰も居ない街に見えた。
空が群青に落ちる頃には、やがて家々に灯が灯るだろう。

寂しいのは今日も同じ。
だけど久しぶりのエドの笑顔に幾らか救われた気がした。


そういえば幼い頃も。

毎日のように、
日が暮れるまで遊んで。



沢山笑って…。






遠のく自分の姿が見える。


この夕日に消えてしまいそうな自分の存在。



今の自分は、
どんな顔をしているのか。





「明日からはもう少し近くで監視しな」

後ろから聞こえたその声に未登録は振り返る。
エンヴィーは茜橙に染まりながら街を見下ろす。


「あいつらのこと気に入ってるの?」

突然そう言って彼は笑った。

未登録は二人のことを訊かれ少し動揺を見せる。
無表情だった仮面が僅かに揺らいだのを見てエンヴィーは愉しそうだ。
黄昏を受けた彼の瞳は幻想的だったが、映り込む夕日は未登録に現実だけを見せる。


「…そんなことないわ」

ふと思ってしまうのは、


笑えないのは、自分だけじゃないこと。


「俺があの二人を殺したらどうする?」

尚も、くすくすと笑う。
未登録は心の中で一人、殺させないわ、と呟く。


エンヴィーは未登録の目を見て、また少し笑った。



空虚な目。



だけどまだこんなにも、冷撤な輝きを放って。



「お前のそういう瞳…ぞくぞくするよ」

変わるものとそうでないものがエンヴィーには心地良いのだろう。

今は震えることもない肩と背中。

未だ未登録が玩弄の衝動を誘う事実を、エンヴィーは嗤った。

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