1:凄涼

行方知れぬ

名も声も営みも
その呼吸も


必要とされないなら
存在しないのと同じ。






吹きつける風にエンヴィーは僅かに西を見やる。
気がつけば夕日はもう、先刻とは違う色をしていた。


アジトに戻るのだろうと思い未登録も立ち上がる。




「帰るよ」

エンヴィーが無意識に言ったその言葉に、未登録は驚いて顔を上げた。


「………」


違う。


思考が追いつかない内に否定した。
動揺する自分を振り切るように。

狂いそうな寂しさの中で自分が自分である証をくれるのはエドとアルだけだ。

声も顔も、
自分の名前すら忘れそうなんだ。


帰る場所なんてない。

だから違う。


でも、
もしかしたら。



しがない同一性を
繋ぎ留めているのは。






星を飾り始める空に、未登録は黙ったまま歩き出す。
彼方に戻らぬ太陽は、また凝りもせず昇ってくるだろう。

だから寂しくないなんて、嘘にも満たないのに。




迎える夕暮れに泣けも笑えもせず、
この街に未だ少女は在る。



透明な羽根はその姿を狂わせていく。





籠は頭上を覆い、
今日の陽にも、致し方ない凄涼を招く。



今此の度一つでない影も、きっと、
更なる凄涼を招くだけなのに。

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