1:凄涼






「その話、確かなのか」

エドはロイを見据えて言った。

「兄さん?」

「夫妻は血塗れだったって、そう言ったのか。未登録は…」

其処まで聞いてアルもはっとする。
ロイは組み手に顎を預け、静かに二人を見た。


「生存の可能性は低いが、君達の捜し人は行方不明だ」


「未登録が生きてる?」

「でも村にはお墓が…」

「部下の報告では村の役人が事実を歪曲した疑いを指摘している。…子供の墓の下は空っぽだとね」

ロイの話に言葉を失う二人。


「じゃあ、未登録は犯人に連れ去られたのか」

「それは分からん。その少女が両親を殺して逃げた可能性もある」

「っそんなことできる奴じゃねぇよ…!」

エドは怒鳴ってロイを睨みつけた。
そんなエドを隣で見つめるアル。

「だったら尚更警察は未登録を捜してた筈ですよね?僕達地元の警察を訪ねたけど追い返されちゃって」

職務怠慢の極みだと漏らしてロイは立ち上がる。

「あそこは何かとずさんな地域で有名でな。夫妻には親戚や親しい知人もない上、事件が起きたのは村に越してすぐだったらしい」

「村ぐるみで厄介事を揉み消したわけか…其処まで調べたってことは、あんたも未登録を捜してるのか」


「…。その未登録という少女も優れた錬金術師だそうだな。もしも潔白の身ならば軍で保護したいと考えている」


ロイはこれも立派な執務だと笑って、エドの肩を叩いた。








「俺達が未登録を見つけりゃ手間が省けて万々歳ってとこだな」

「でも軍の命令で捜索してるって名目が立つじゃない」

ロイと別れた後、エドとアルは司令部前の石段に座っていた。


「ふん、大佐に言われるまでもねぇ。未登録を見つけ出す」

そう言いつつも、エドはロイの計らいにほんの少し感謝した。


「にしても、また途方もない探し物が増えちまったな」

「あはは、そうだね」

「そういや、前にアルが未登録に似た奴を見つけたことあったよな」

「え?」

「ほら、国家資格取った頃セントラルのレストランで」

「あれは人違いだったかもしれないし…それにもう何年も前だ」

「でも事件よりは後だ。セントラルに連れていかれた可能性だってあるだろ」


「…ぷっ、ふふ」

「あ?なんだよ」

「ううん、なんでもない」

急に吹き出したアルにエドは眉を顰めた。


迷いのない瞳。

じっとしていられない様子の生き生きとしたそれは、
アルが最も好きな兄の姿だった。






何処かに今も在る。



記憶の中の少女。




鮮やかになるのは、



残像に似た、
君の柔らかな笑み。

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