5:やさしい日

「―――…おい…お前人の下で何してんだよ…」

「――――!!」

思わず未登録は絶句した。
そんなことを言われても未登録には何がどうなってこうなったのか全然分からない訳で。
おまけに寝起きは機嫌が悪そうだと踏んでいたがやっぱりそうだった。
可哀想に、エンヴィーのどすの効いた声に未登録はただ固まっているしかなかった。


「ていうかなんでお前俺の部屋に寝…」

言い掛けてエンヴィーはふと周りを見渡した。
其処は紛れもなく未登録の部屋で。



「……」


信じられない。
看病疲れでうたた寝したなんて。

状況を把握して一番驚いたのはエンヴィー自身だった。
まるで人間みたいだと自嘲するエンヴィーを、珍しそうに眺める未登録。

「何見てんだよ…」

「! いえっ何もっ!」

「…お前、身体はもういいの?」

そういえばとても身体の調子がいい。
エンヴィーの問いに未登録は頷いた。


「そ。しぶといとこもあいつそっくりだね」

「?……あっ、あの!」

さっさと部屋を出ようとしたエンヴィーは、未登録の声に振り返る。

「何」

「ありがとう…看病してくれて」

思いがけない言葉に、エンヴィーは不快そうに眉を顰めた。

「…今度は死ぬまで働かせてやるよ」

「それに、ずっとつき添ってくれて…」

「だから〜…」

「此処に来て初めていい夢が見れたから……ありがとう」


「…」

それは笑顔ではなかった。
だけど、何処か嬉しそうで。




「…知るか、勝手に好きなだけ寝てろ」








「エンヴィー、お嬢ちゃんは……あら?」

様子を見に来たラストは、未登録の部屋の前で突っ立っているエンヴィーに出くわした。
しかし何やらエンヴィーの様子がおかしい。


「…エンヴィー、貴方顔赤いわよ?まさかあの子の風邪が移…」

「下らないこと言わないでくれる」

「じゃあなんで赤いのよ」



なんでってあいつが…。


「…年増は黙っててよ」

「なんですって」

青筋を浮かべるラストをよそに、エンヴィーは仕事に行って来ると言い残し、一人真昼の廊下を進んだ。



「……ムカつく」

礼を言われる筋合いなんかない。





俺の気まぐれが
あいつにあんな顔させたなんて、


そんなこと解りたくもない。



やっぱり、




毒飲ませときゃ良かったんだ。


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